魔女喰い (プロローグ:心夜)
俺が歩けなくなった日。
交通事故が起きた日。
脊髄損傷による障害で単麻痺となり、片足が動かなくなった日。
なぜ、あの交通事故は起きたのか。
運転席に座る運転手に落ち度があったからなのか。
全ての因果関係から巻き起こる悲劇に、俺が巻き込まれた日だ。
それは悲惨な玉突き事故だった。俺の両親は亡くなり、俺はこの通り。
あの日、俺は死ぬはずだった。死んでもおかしくはなかった。
気を失って救急車に搬送されるまでの間、俺は夢を見た。
天使が俺の傷を癒やすというありえない夢だ。
過去の思い出は蘇らなかった。夢の中で、天使が俺に声を掛けてきた。
何かを言っている。声は聞こえない。
天使の口づけで俺の傷は回復した。あれは夢だったに違いない。
俺が目覚めた場所は、病院の中。
事故がどのように起きて、どうやって運ばれたのか。
自暴自棄になった俺は何度か死のうと考えた。
その度に、あの日の天使は俺の夢に表れて、俺に「生きて」と囁いてくる。
頭が可笑しくなったのかもしれない。
それでも、俺は夢で会う天使に心を奪われてしまったようだ。
あれは夢だったのか、現実だったのか。