熊本
「石田三成に真田幸村って戦国武将みたいな名前ですね」
アリサは大きな目をいっぱいに開いて助手席にいる三成の話を聞いていた。
「まあ、ただの同姓同名ですが、よく言われます」
三成は助手席からバックミラー越しにアリサを見ていた。
ドライバーは寡黙な真田幸村である。
「三成に過ぎたるものがふたつあり、佐和山の城に、島の左近という歌があったと思うけど、島左近さんはいないんですか?」
ウェブ小説投稿サイト<ヨムカク>の運営リーダーの神無月萌も同行していた。小説コンテストが一段落して、久々の休暇をもらったのだ。
「島左近もいますよ」
「そうなんだ」
萌は切れ長の瞳を細めて笑った。
「熊本の避難所の状況はどんな感じですか?」
アリサはカウンセラーの資格を持っていて、ウェブ小説投稿サイト<ヨムカク>のアルバイトの休日にボランティアで熊本に訪れていた。
「かなり物資は揃ってきてますが、そろそろ心の問題が出てきます」
三成の表情は少し暗くなってきた。
地震の恐怖か、閉所恐怖症的な症状もでてきてたのだ。
「私たちが頑張ってみます」
アリサと萌は叡智大学心理学部出身の先輩後輩だった。
被災者の話し相手ぐらいにはなれるだろう。
「お願いします」
三成は深々と頭を下げた。