第四話、魔法適正値96%、魔法限界値未知数。
「はっはっ、すーー。はっはっ、すーー」
あの後いくつかの武器を拝借した後、雅はトレーニングとしてランニングを始めていた。
丁度良くこの庭は運動できるスペースがあったので使わせてもらうことにした。
体も温まってきた所で雅は武器を使ったトレーニングをやり始めた。
ーーー屋敷内ーーー厨房ーーー
「スミル、ミヤビ様の事どう思う?」
「なっ、何?クレハ?どういう事?」
「ミヤビ様、召喚されてこの地へ来てくださったそうじゃない?しかも祖父様がこの屋敷に伝わる英雄のヨミ様なのよ?あなたは、この世界を救ってくれると思う?」
クレハは何故か雅を見ているだけで自然と安心する。
彼には他の人とは違った何かを持っている。そう思えた。
「そうね、私はクレハの様に先の事を考えられるような獣牙種じゃないから、今日見て思った事だと、今日、ミヤビ様がお風呂を準備なさるって言った時の理由が私にはとても新鮮で温かみのあるように感じられたの。ヒカル様は貴族らしさが何一つない。でも、そこがいいの。あのお方にはその姿が一番ふさわしい。そう感じたわ。…それに」
2人は腐っても獣だ。人ひとりがどういう人物なのかは見た目と雰囲気で判断できる。
「……それに?」
一向に返事が返ってこないスミルを見ると顔をさくらんぼ色に染めていた。
「な、なんでもない!それより、そろそろじゃない?1時間」
「そうだね、私行ってくるよ」
「うん」
パタパタと駆けていくクレハからすぐ視線を外し下を向く。
「……よし!」
スミルはある事を決断し、それをいつかクレハに相談することを決めた。
「しまった…」
クレハは雅がどこで何をしているかを聞いていなかった。
メイドたるクレハがこのような初歩的なミスをしてしまうなど言語道断。一刻も早くミヤビ様を見つけなければと焦っていた。
「あ、いた。ミヤビさ……」
クレハは呼びかけていた口を閉じ、一点を集中して見つめていた。
いや、正確には目を離せなかった。
「柏木式両剣術、三の型、死並べ」
雅は持ち手の両側に刃があるその武器を腹回り、指の間、手首を器用に使って回しながら型の練習をしていた。
顔には大粒の汗が大量に流れている。恐らく、1時間ぶっ通しで練習していたのだろうか。
多少息が上がっている。
「そろそろか……ん?」
雅と目が合う。
クレハは自分が柱の陰に隠れながら見ていた事に罪悪感を覚えすぐに離れる。
「申し訳ございません。ミヤビ様。1時間経過しましたのに私がボーっとしていたせいで遅れてしまいました」
クレハが誠心誠意頭を下げる。
「ごめん!俺、場所とか伝えてなかったよね?探すの大変だったでしょ?面倒をかけて本当にごめんなさい!」
雅が誠心誠意頭を下げる。
どうやら2人とも同じタイミングで謝ったみたいだ。
「…この度は大変申し訳ございませんでした。従者が間違いをしたのになにも罰をかけないとはミヤビ様はお優しいんですね」
部屋に行く途中、クレハは雅にもう一度謝る。
「いやだってこの事については俺の方にも責任はあるだろ?なのに罰を片方だけが受けるって俺としては目覚めが悪い。それに、女の子に罰を与えるなんて俺にはできないよ」
雅は心から口にする。今まで、女の子は傷つけてはならないとお父さんに教わっていたのだ。
クレハは顔を下に向ける。
(やっぱり、今まで会ってきた中でもミヤビ様だけ全然違う…)
この屋敷に雇われる前の事を思い出した。
そしてクレハは、次第に雅という人物に興味を持ち始めた。
―――翌日―――
雅は魔法学校に通うことになった。
雅が召喚とやらをされて落ちたあの学校とは別の学校だ。
そして、雅はクラスメイトの前に立って自己紹介を担任に促されていた。
「えっと、初めまして、異世界から来ました。大岡雅です。これからよろしくお願いします」
パチパチとあまり歓迎されていない拍手。
「(なんとなく察していたけど、実際にやられてしまうと精神的にくるものがあるな)」
「じゃあ、お前の席はあそこだな、フィレイ。よろしく頼んだぞ」
「はい」
どうやら雅は転校生の定番の位置である左下の席になったみたいだ。
この教室の雅の知り合いはフィレイとそのメイドのクレハとスミルだけのようだ。
フィレイは手で、クレハとスミルは笑顔で応じてくれた。このクラスレベル高いんじゃないか。そう思ってしまう雅だった。
雅は指定された席に座る。
「よろしくね。ある程度は説明したけど、分からないことがあったら言ってね」
右側にフィレイが座っている。
「(うん、優しいし可愛いし最強じゃないですか。男子生徒からの目がちょっときついです)」
「よし、じゃあ皆仲良くしてやってくれ。1時限目は実技だ、遅れるなよ。以上」
先生がドアに向かって歩き始めた。
実技は魔法の訓練と戦闘の訓練が行われるようで、
雅は体操着に着替えながら体育館らしき場所に向かっていた。
「(あの自己紹介の後、誰一人として質問に来ないとかどんだけ俺見放されてるんだよ…。悲しいぜ…。
昨日フィレイから聞いたけど、召喚された生徒は合計戦闘値とやらが満たされていない奴ばっかだから今交友関係を築いても意味がないんだろうな)」
でも、少しは話しかけてきてくれてもいいじゃないか。雅はそう思う。
「(ちなみに、男女一緒に授業をやるらしいから、そこだけは評価してやる。ブルマ万歳)」
「雅、お前適正値と限界値測ってないだろ、今のうちにやっとくぞ」
体育の教師に呼び止められる。
まだ休み時間なのでゆっくりしていたかったが仕方がない。
手を伸ばしてなにやら長座体前屈の機械のようなものに通す。
この学校に残れるかどうかは近接戦闘、魔法攻撃、共に評価が一定水準を超えないといけないらしい。
「しかし入学して早々に退学というのもどうだろう…」
ぶつぶつ言いながら少し緊張してその時を待つ。
しばらくして紙がにょーんと出てきた。
「(気持ち悪)」
普通にそう思った。
「えーっとどれどれ…」
教師が紙に目を通す。
「…は?未知数?」
「「「「「……え?」」」」」
少し気にしていた周りの生徒が素っ頓狂な声を挙げる。
「…すまない。もう一度手を通してくれないか」
「はい」
言われた通りに手を通す。
「未知数とは…、聞いたことがないぞ…。かの大賢者様でもちゃんと数値は出ているというのに…」
大賢者様とは以前この地に訪れて魔王を封印してくれた存在とのこと。めちゃめちゃ強いらしい。
*(フィレペディアによる事前調査)
「すごいんですか?」
「すごいなんてものじゃないよ!これじゃあ魔王討伐も夢じゃないよ!!」
フィレイが興奮した声で話しかけてくる。
「…フィレイ。魔王の話はここではするな」
「あ…はい…すみません。少し興奮してました」
「(そんなに魔王は嫌われているのか?)」
普段から発言を禁じられるとは思っていなかったため、雅はこれからは気を付けようと心に刻んだ。
「ミヤビ。それじゃあ、あの人形に向かってファイヤーストームと念じるか声を出してみてくれ。
どのくらいの威力になるかは想像に任せるが、あまり大きくしないように」
この世界の魔法はイメージで強さが調節できるらしい、その分、マジックポイント(MP)を多く消費してしまうとのこと。使いすぎると全身の力が抜けるので注意。だ、そうだ。(フィレペディア参照)
「(ファイヤーストーム!)」
念じてみた。
一瞬にして炎が生成され、素晴らしい勢いで飛んでいき、案山子(鉄製)を溶かした。
「うおおおおおおおおおお!!!俺魔法が使えたああああ!!!!!」
思わず飛んで叫ぶ。
「すごいな、普通だったら凝縮してほんの少しだけしか削れないのに…」
「すごいわ。ミヤビ!こんな威力の魔法を出せるのは貴方だけよ!!」
やべえ、チート過ぎねえか?
そう思わずにはいられない雅だった。勿論嬉しいが。
その傍らで、
教師はその炎の燃え方を暫く観察していた。
「…得意属性ではないのか…?」
その教師の言葉を聞いた者は誰一人としていなかった。
雅は得意分野の近接戦闘の実技を行うため、隣のスペースへ移動した。