フクシマ
「防護服なくなったので、仕事しやすいなあ」
日雇いの50歳ぐらいの男が晩飯を食いながらつぶやく。
「だけど、本当に放射能とか大丈夫なんですかね?」
30代前半の若い男は心配そうだ。
「わしは妻子もいないしいいけど、あんたはまだ若いから、適当に金稼いだら他の仕事につきな」
50代の男は本音を吐く。
「やっぱり、そうなんですか」
「食べて応援していた女優や俳優がガンで亡くなってる。乳ガンとかもあるし、タレントやスポーツ選手も体調不良になってるだろう。フクシマの米は外食産業に流れる。弁当ばかり食べてる芸能人はイチコロだよ。ここの所長も食道ガンが全身に転移して亡くなってる。子供の甲状腺がんも多い。東京でも白血球が減少してて、そのデータを見た医師が岡山県に移住したらしい」
「どう考えても……」
若い男は口ごもる。
「フクシマはちっとも終息していない」
長い沈黙が落ちる。
「地方創生のための官庁移転、あれ、やっばり、本当は放射能のせいですかね。文化庁は京都移転するし、某有名ブロガーも何故か高知に移住したと言うし」
「名古屋が副首都になるという話もあるしな」
年配の男はそんなことまで言い出した。
「まあ、俺らが考えることじゃない。頭のいい官僚さんか政治家さんに任せるしかない」
「そうですね。明日も早いですし、飯食ったら寝ます」
若い男はガツガツと飯をかっこみはじめた。
年配の男は瞑目して生き別れた妻子の姿を思い出して、酒をひとくち飲んだ。