其の一 鉄砲水で死んだと思うたんぢゃ♡
仕事も無ければ、女にも縁が無い。そんな惨めな臭い男三人が、行く宛も無く歩いていた。
ジリリと灼けつく日差しの下、三日三晩飲まず食わずで、トウトウ死ぬしか無い所までやって来た。
「嗚呼、我らも此れ迄ぢゃ、せめて水場で死にたいわな……」
と、誠 。
「そうぢゃ、一口でいいから水を飲んで死にたいのう」
と、剛 。
「果たして、ソコまでワシラ、たどり着けるかの……」
と、大悟。
やがて、這いずりながら進んだ橋のたもとの方で、ナニヤラ水飛沫《みずしぶき》の匂いが、風に乗って匂《にお》うてくる。
「やや、アレは、川ぢゃ、奥に滝も見える」
「おお、せめて彼処《あそこ》で死のうぞ、最後が川の水って云うのも、ワシラらしいの」
「今更、兎や角云われとうは無いわ! 黙ってススメ。しかし幻《まぼろし》じゃあ無かろうのう……」
重い体を転がし、匍匐《ほふく》前進の様に、ジワジワ近づく。
そして、川へ転がり落ち、川辺へ滑り込む。
我先に、川の水を吸う、吸う、コレでもかと吸う。
「ぶぅはぁ、生き返った……じゃが、生き返ったと云うて、何をスルでもないんぢゃ……」
「イッソアノまま、死んで仕舞ったほうが、親の為ぢゃったのに……」
「……ヤハリ、死ぬのは怖いのう……ワシは、ワシは、舶来金髪の春画をモウ一回見たいんぢゃ……」
三人が、喉を潤し、死から遠ざかった其の刻、空の色が、白藍《しらあい》から、一気に瑠璃《るり》色に変わった。
ソシテ、ドンドン漆黒の様相に成った。
「なんぢゃ、嵐か?」
「異様、此《こ》れはナント異様!」
「嗚呼、ワシラが死ななかったから、神様がお怒りぢゃ、嗚呼、舶来物の春画……見たかったなァ」
水で腹は膨れたが、飯を喰うて無い身体に力は入らず……
川上を
唸る轟音《ごうおん》
石混じり
――大悟、辞世の句。
粗方《あらかた》の物を押し流す様な鉄砲水が、三人を襲った。
「コレで、終わりぢゃ…………」
恐ろしさに目を瞑った三人に容赦なく襲いかかる鉄砲水。
ドドドドドドオオオオオオオオオオオオンンンンンン
小枝のように力無く、流され飛んで飲み込まれた。
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「何だこの、小汚い人間は! 城に報告せよ、早急にだ」
「かしこまりました!」
透き通るような真っ白な毛並みの馬に、艶々に磨かれた鏡面の様な鎧を纏った、荘厳な佇まいの男。肩から首へ、城壁のように網目の細工が施された、綺羅《きら》びやかな胸鎧《むねよろい》。肘の段平《だんびら》がシャリシャリと動く度に音が鳴る。
その男の名は、アンディ閣下。この一体を仕切る、軍隊の長であった。
「おい、起きろ、何者だ、名を名乗れ」
アンディ閣下は、普通の馬よりも一回り以上肥えた馬上から、身の丈よりも大きい豪槍で、三人を突いた――