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主国であったこんな話

 ポルンコツトウェル王国。
 それは、近年に周辺諸国を様々な手段で併合して生まれたと言うか大きくなった国である。
 王国と言う割には、王と名乗るのは主家である王とその周囲をとり囲む三つの公爵家で御三家と呼ばれている。
 その、あまりにも時代を先取りしすぎた王国の流儀を揶揄して王国の名前を文字ってポンコツ王国と呼ばれたりもする。酷い扱いである。
 もっともそれを王家と周辺の御三家は大笑いをするだけで諫める事も不愉快になる事も時の当主達はしなかったと言うのだから、何某か思う所があったのか。それとも、と言う所だろう。

 元々、ポルンコツトウェル王国は小さな辺境国であった。
 特に王家として確立しようと思って出来たのではなく。建国当時の人々が己と懐に入れた人達を守り抜くために組織化した方が何かと便利だと思っていた事で生じたのであって、決して今の様な王政国家を築きたいと思ったわけではない。
 しかしながら、時の流れとは残酷なもので「面倒を回避するために行動したら更なる巨大な面倒が舞い込んできた」の典型を繰り返してたと言う現実に涙を流したと歴代の当主の日記には記されている……もちろん、時代の流れにあって本来は持ち回りで行う筈だった王位継承も欲や権力に目が眩んだりした争奪戦になったりした事もゼロではない。
 国が分裂しそうになった事も、一度や二度ではない。
 幸か不幸か、それでも何とかなってしまったのがこの国の幸運であり不運なのだろうが。

 さて、このポルンコツトウェル王国に置いて王家は一家と支える三家を頂点とし、その下の侯爵家は7。伯爵家でも20程度あり、他国では不思議がられる事も珍しくないが主に王家に輿入れをするのは伯爵家が最も多い……公爵家はどこかの家が必ず王家になる事が出来る為に血が濃くなる事を恐れたのか神殿からのご威光なのかは不明だが、物心をついて分別が着くようになる王家と御三家の子供達は一つ所で分け隔てる事なく育てられる事もある。
 これは、幾つかの時代の流れで我が子を王位に着けようと画策した家があったのだが「全員親戚」と認識してしまう事で無駄な反発的な戦闘意欲の減少と、ある程度の競争心を植え付ける事を目的とされてきた為に起きた苦肉の策である。無論、まとめて育てられる事を嫌う子には選択肢として拒絶する事も認められているが、一度拒絶すれば基本的に自由意思で入る事は出来ない……王命でもあれば話は別だが。
 それに伴い、その子供達の連れ合いは貴族として親が管理するのは当然として最も選ばれるのは伯爵家が多かった。伯爵家の数は上位貴族の中で最も地位が低く最も家の数が多い。下位貴族でも子爵家は家格が足りない事で教育不足が否めないので王家に嫁ぐ事は出来ないし、かと言って侯爵家は基本公爵家が潰れたり潰されたりしたら引き上げられる事や主だった外交面でも主軸となる家が多いので無駄に王家と繋がりを作るわけにはいかなかった。かつては外交に特化した侯爵家が王家に輿入れをする事もあったのだが、その為に他国に付け入る隙を作り乗っ取られかけた事がある……今や属国となった隣国のクレメント王国である。
 当時の王家と外交を担う家はかなりのやり手だったが、あれこれと画策と時限式問題発生装置(人力)を仕込んでおいたおかげか、現在では険悪になる事もなく一部向こう側に思いあがった選民思想がちらほらと存在しているだけであって無駄に平和なものだと知っている者は知っていた。

「殿下、執務中に失礼を致します」

 元は持ち回りで王家を回していた関係で、外交以外の場所……主に執務室などは持ち主の趣味を反映させる事も多いが大多数が機能性重視と言えば聞こえは良いが殺風景な内装を好む者が多い。それは、幼い頃より王家に引き取られて中枢に入りこむことを約束された頃に徹底的に最初に教え込まれるのが「権力者は民にとって誰も良いし、民にとって個別認識をされると思うな」と言う、夢も希望もないものである。
 もっとも酷いのは役所の関係者入り口に掲げられた「この先を望む者は一切の希望を捨てよ」と言うもので合言葉は「役人は民の奴隷たれ」である……流石に、大っぴらに言う事は評判的に憚られるもので止めてくれと考え付いて実行した時の長官(実務的な意味での役所の最高権力者)は大臣に泣き着かれたと言われているが、時の王家と御三家が否定しなかったので入り口の看板は今もって外されていないと言われている。
 話を戻そう。

「構わぬ、ミネーヴァ伯爵代行を呼び寄せたのは我だからな」
「いえ、臣下たる者はいついかなる時があろうとも呼ばれますれば馳せ参じる事は当然であると学んでおります故」
「よい、長々とした口上は不要である……公式の場と言うわけでもないのだからな」
「ありがとうございます」

 いかに質素倹約の看板でも掲げているのかと問いたくなる室内であろうと、来客をもてなす為の施設くらいは存在する。つまり、ゆったりと寛げるソファセットだ。ついでに、この部屋の隣には隠し扉の向こう側に使用人の待機部屋があるので、そこで一般市民にはちょっと手が出ない程度のお茶とお菓子を用意して貰えるだろう。
 時間指定で呼び出されたとは言え、ミネーヴァ伯爵代行と呼ばれた人物は臣下の礼を取るのは当然だと思った。
 ただ、それだけだ。

「呼び寄せたと言うのに放置して済まなかったな、この書類だけは片づけて置きたかったのだ」
「とんでもございません、殿下の仕事熱心さは民の耳に入り口に出る程でございます。民の為に辣腕を振るわれるお姿を拝見している民が案じる程度には……ですが」
「全く……どこでその様な話が広まった事やら……我は立場に見合った事しかしてはおらぬと言うのに……」

 にっこりと、ミネーヴァ伯爵代行は微笑み一つで会話を打ち切った。
 実際、現在の王家及びご参加に連なり実務を担当している者の中で民の生活に直結した仕事を行っているのは目前の人物だと言うのは周知の事実だ。確かに奏上された様々な案件に最終的に了承をするのは王の役目ではあるが王が委細承知の上で御璽を押しサインをする事は間違いなく存在しないと言えるだろう。とは言っても、別に時の王が無能なのではなく出来ない事は出来ないと言うだけの話だ。そうなれば事実はどうあれ報告を上げて来た部下達を信頼しなければ政治と言うのは成り立たないものである……事ある毎に城を抜け出して町民と交じり、夜な夜な後ろ暗い事をしている者達をばっさばっさと勝手に切り倒してしまい放置するどっかの暴れんぼ王な役職者は一般的には秘匿されているし秘密裏に処理をする者達にしてみれば血の涙を流しながら今日も帰れないと嘆く生きる屍を量産してくれるどっかの国に比べれば遥かに健全だろう。
 何しろ、そのどっかの国では王と側近が毎日仕事に来てくれるだけで涙ながらに万歳三唱をしてくれると言う、好感度だけならゲームとしてなり立たないくらい詰まらないと言うのに。滅多に表立って仕事してくれないと思われているので部下や民からの評価は最悪な遊び人として有名なのだ。
 本人としては国の為、民の為になると思って頑張っているつもりなのでダメージ大だが、部下からしてみれば超自業自得としか言い様がない。

「やれやれ……そなた、その様な態度ではこちらも出方を伺いたくなるぞ?」
「何の事でしょう?」

 いっそ、舌打ちでもしてやりたい気持ちでいっぱいだった殿下ではあるが……まあ良いと侍従に持たせたお盆を差し出すように無言で指示しつつ、ソファに座る。
 家具も素っ気ないし食器に至っては飾り物にしか見えない程度にちぐはぐな程豪華だが、別に好みと言うわけではなく「そこにあるから」と言うだけで使っているので文句を言う気も無ければケチをつけられる覚えも無い

「殿下への書簡なのでは?」
「其方にも無関係と言うわけではなかろう……何しろ、ミネーヴァ伯爵からの書簡と言うか報告書の域だな」
「ヴィクトリア……様、の?」
「ヴィーの報告書? だけで、十分だとは思うが……あの国は属国の分際で何を考えているのだろうな? 報告書には証拠品も添えてあったから、これで十分あの国を潰す名目になるのだがなあ……自殺願望でもあるんじゃないか、あの国?」

 促されて、静かに差し出された盆の上から自身も使っているミネーヴァ伯爵の紋章付きの封筒と手紙を読み進めると……伯爵代行の顔が引きつり目が血走ると言う状況になって行くと言う姿を殿下は「そうだよなあ、普通はそう思うんだよなあ」と内心でしみじみと思う。

 この、ポルンコツトウェル王国でミネーヴァ伯爵と言えばちょっとした有名人だ。
 伯爵としてかなりの若さで美しい容姿をしていると言われているが、留学先で身内も今の所は居を構えている属国のクレメント王国にいる為に、そう言う意味では名前の割に存在感はないかも知れない……最もミネーヴァ伯爵を有名にしているのは、その商業的手腕でありポルンコツトウェル王国でもかなりのやり手であり将来の王妃を打診されていると言う噂である。
 ミネーヴァ伯爵の行って来た経済的手腕は一族の土台を引き継いだ部分も少なくはないが、かと言ってそれだけではなく新製品や制度の発想が一風変わっている所が高評価として受け入れられているのだ。
 本人は知らずとも、その功績には世話になっている……ミネーヴァ伯爵ヴィクトリアと言うのは、そう言う存在だ。少なくとも、ポルンコツトウェル王国とその属国に関して言えば優先的に商品は回される事になるので恩恵は受け入れられる事となる。

「これ、何の冗談なんですか? 異国にあると言う嘘が許される日は違いますよね?」

 うっかりと、素が出てしまう程度にはミネーヴァ伯爵代行は驚いた。
 この話を持ち出してきたのが他の人……ヴィクトリア本人は微妙なラインだが、その身内以外から聞かされたら「無駄口を叩くな」と一刀両断にされていた事だろう。ミネーヴァ伯爵代行の口撃は、慣れぬ者が前置き無く対峙する事があれば絶対に敗北するとまで言われているのである。見かけによらず。

「いいや、事実だ。
 こちらの諜報部隊も伯爵やお身内と連携を取るまでもなく事実だと報告してきた」

 ついでに、気やすい関係者からは「とっとと引き上げる様に命じて上げて下さいよ。見ている方が居たたまれないです」と言われる始末である。
 しかし、そう簡単に言い切る事は出来ない……政治的経済的な話もあるが、あの国には利用価値がまだあると思っていた事も事実なのだ。つまり、ミネーヴァ伯爵が幼い頃から属国に留学していた最大の理由はクレメント王国への抑止力も兼ねている……その筈だった。

「しかも、すでに侯爵家ご一同様は血管ブチ切れじゃないですか……」
「それで済めばよいがな……」
「休暇でも取りますか……」
「ま、其方……!?」
「それより、無事にヴィクトリア様が戻られてから国ごと思い知らせる方が良いでしょうか?」
「待てと言うとろうがっ!」
「ええ……ですから、お待ちしてますよ?」

 クレメント王国は、属国となるくらいなので大きさで言えば「よくある建国史」を持つ程度の小さな国だ。つまり、建国の祖が伝説になる程度の功績をなしたので人々が王に祭り上げたとか、そんな感じだ。嘘か誠かはともかく、歴史的価値はそれほど高くないし現在の王族も色々あったお蔭で近代の王は第五王子だったし王妃は滅多に表に出て来ないので色々と良くない噂もある。王が最も恐れ信頼しているのは、件のミネーヴァ伯爵ヴィクトリアの両親だし、王の子と認められている三人のうちの一人がやらかしているので先は無い可能性が非常に高まったのは確かである。
 残念ながら。

「ヴィクトリア様がお戻りになり、ご意向を伺うまではですが……一応、クレメント王国の現王と王妃はヴィクトリア様のご両親とは知らぬ仲と言うわけではありませんしね」
「確かに、王の子であり貴族であり男であり人であり子供であろうと許されるものではない……しかし、自滅するからと言って国まるごと滅ぼすなど……あの者は行いは間違っているが実質的には間違いとも言い切れぬのだぞ!」
「殿下……いかに我が当主、麗しのヴィクトリア様をご心配なされているからと言っても。たかだか属国風情が我が国の王妃候補筆頭である伯爵を蔑ろにされたからと言って滅ぼす等と口走るのはいかがなものかと思いますよ?」
「誰が! 其方が……!」
「私は、ただ思い知らせると口にしたまで……滅ぼしてしまえば思い知られる事など出来かねます」
「そ、それは……」

 口籠る上司と言うか高位の存在を見て、横目の侍従の目が「いじめすぎですよ」と語っている姿を見て、流石に少しやりすぎたかと思う。

「戦慄のメロディア殿下、確かにかの王子殿は何も知らず何も知ろうとはせず何もかもから逃げた上で思い違いをしている愚か者で同情する点がないとは言いません……ですが、殿下でさえご理解出来る事を何故彼には出来ぬのかとんと判りかねるのです」
「む……我を侮辱するつもりか?」

 戦慄のメロディア……それは、この国に置いて戦慄と旋律をかけたものであり、メロディアと言う名を掛けているものである。これは、徹底的に殿下が音痴……と言うわけではなく、この殿下は年齢の割に天才肌であるが故につけられた二つ名で本人は非常に困っている。好きか嫌いかで言われるとどちらでもないが、かと言って積極的に名乗りたいとは思わないのだ。故に、困ると言う結論になる。
 ちなみに、音楽的才能に関しては不明だ。

「いいえ、むしろ私はあの国より一刻も早くヴィクトリア様にはお戻りいただき本来の伯爵業務についていただきたいと心の底より願っております。さすれば、殿下のお仕事をヴィクトリア様にはお手伝いをしていただく事も可能でしょう」
「我は……!」
「殿下が精いっぱいの努力をなさっている事は、民の間でも流れる噂になるほどの事実でございます。ですが、本来のお姿を封じられ民の為に賢明なお姿は誉であると同時に不安を呼びます事は我らが未だに未熟だからでしょうか?」

 ミネーヴァ伯爵代行は、美しい装いの人物だ。
 己の衣服には流石に素っ気なさを出すわけにはいかない為に王族の衣装は、普段着だと言われても素材からデザインまで一級の針子を使っていると言われている。無駄にドレープだの宝石を縫い止めたドレスだのを喜ぶのは中級以下の貴族くらいだ。上級貴族でも流行の関係で無駄に豪華と言われるドレスを流行に乗って着る事はあるが、特に王家は宝飾品はともかくドレスの形はシンプルなものを好む傾向にある。
 メロディアは人前に出るとは言っても貴族ではなく民寄りなので、そこまで派手な衣装にはならないが動きやすさ重視だ。その事もあって、顔立ちが派手なミネーヴァ伯爵ヴィクトリアの前ではお互いが大好きだと公言するが委縮してしまうし、ミネーヴァ伯爵代行を相手にすると、完璧な淑女と言いたくなる装いに自然と敗北宣言をしたくなる。

「……済まない、我が期待に応えられぬ王族であるから」
「違いますわ、殿下。
 代われるものならば、我ら家臣は殿下の為にお力となりましょう。ですが、代わる事が出来ぬ事があると言う事が腹立たしく、歯がゆくもなるのです。その殿下のお力になれるヴィクトリア様、彼女には一刻も早くお戻りになっていただき殿下のお力となっていただきたい。そう願ってしまうのです!」

 こほん

 話し続けていた為に夢中になったのか、ミネーヴァ伯爵代行は断りもせずにメロディアの手を握り締めていた。いつの間にか。
 メロディアも、いつの間にか握られていた事実に顔を赤くさせていた。

「申し訳ございません、殿下……不調法でございました」
「い、いや……」
「どちらにせよ、殿下には一刻も早くミネーヴァ伯爵代行様に帰国命令を出していただきたく存じます。最近の流行が下火になって来たとは言っても、世間で婚約破棄宣言をする愚か者が出ているのは事実ですもの……間違っても、ヴィクトリア様が在学中に婚約破棄などなされたら事態は完全に動いてしまいますわ。ましてや、国の内外から人が集まる様な行事の最中にされた日には我々で止める事は不可能になりますわよ?
 例え、本当は婚約などしていなくても」

ーーーーーー

 馬車の中で、ミネーヴァ伯爵によく似た顔立ちの人物はため息をこぼした。

「伯爵代行、その様にヴィクトリア様のお姿でため息はお止めください」
「って言われてもなあ……別にいいじゃねえか、どうせ馬車の中は誰も見てないんだし? あんたは事情を知ってるんだし?」
「嘆かわしい……ヴィクトリア様やご一族がご覧になられれば呆れられますよ?」

 王族の部屋に侍従と護衛がついている様に、ミネーヴァ伯爵代行にも侍従はついている。侍従同士でお互いの主が申し訳ないとアイコンタクトをしていたのは知っているが、それについては侍従としての必須技能なので何か言うつもりにはならない。
 面白いわけでは、ないけれど。

「まあ、見ればそうかも知れないけど……」

 応えながら、彼は頬をぽりぽりと掻き始めた。
 そう、「彼」はヴィクトリアの好む型のドレスを愛用している男性である……年齢的にそろそろドレス姿は厳しいのだが。
 かと言って、別に女装趣味ではない。
 理由の一つとしては、彼はヴィクトリアの従弟なだけあって顔立ちが似ている。ヴィクトリアよりも幾つか年齢が下なので顔つなぎとして出入りするようになった事が理由の一つだが、もう一つ。

「しかも、理由が戦慄のメロディア殿下のお傍にはい寄る為だなどと……どれだけ色ボケなんですか?」
「べ、そう言うわけじゃ……! ヴィクトリアと顔が似てるから、顔つなぎだよ顔つなぎ!」
「それも嘘ではないでしょうが……顔が真っ赤でございますよ」
「しゃ……しゃあねえじゃん、メロディア男嫌いだし……」
「あの様な事があって、男嫌いになるなと言う方が無理ではございますがね」

 先程まで謁見していたメロディア殿下……彼女は12歳の少女である。男装の。
 幼い頃に婚約者候補の男の一人に襲われ、強姦未遂の目にあった。本当に幼い少女であった事と、婚約者候補だった男が幼い少女を大人の成熟した商売人のお姉さん同様に扱おうとした為にうまく行かなかったのだ。それを、男は捕まった時にメロディアが悪いと言いきったと言う……実力さえあれば、多少の事は目こぼしをされる国とは言え王族を害した事と幼い少女を商売女と同一視した事を含めて極刑になったと言われている。
 その為、メロディアは男装を始めた。ある意味で立ち直ったと言えなくもないが、子供だから夜会を断れると言う事を差し引いても良い傾向とは言えない。
 他の男性……心を許した男性であっても、先に恐怖心が立つ程度にメロディアの心は傷ついたままだ。

「ですが……そろそろ体型的に無理が出るのではありませんか?」
「まあな……その事もあって、ヴィクトリアにはそろそろ帰ってきて貰いたいんだがな……」
「ヴィクトリア様は、してもいない婚約を破棄される事で大変心を痛めるのではありませんか?」
「だったら、仕事を詰め込んで余計な事を考えられない様にすれば良いって言う。この暖かい身内の気遣いをだなあ……」
「何と言われましても、サボりの言い訳にはなりませんよ?
 それに、今のままではスペンサー様を殿方としてご覧いただけないのでは?」
「え……?」

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