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その点では、御堂とレゾンには似たところがあるのかもしれない。
「みんなが帰ってきたら、戻ってくるよ」
「あぁ、いってらっしゃい」
御堂の声を背に、ヴィオレは研究室を後にした。
廊下に出て扉を閉めると同時にパーカーのフードをかぶり、視線を落として足を速める。その程度でヴィオレがハイジアであることは隠せないが、目線を合わせる必要がなくなるだけでも充分な効果がある。
向けられるのは、大抵が軽蔑に似た同情の視線だ。伴って吐き出されるため息を消す術は持っていないから、白衣や黒衣の誰かとすれ違うたびに大げさな吐息の音だけがフード越しに聞こえてくる。
ハイジアに向けられる、生物としての苦手意識とはまた違う。ハイジアを管理する、あるいは運用する人間としての、期待が外れた軽蔑が、彼らの中にはある。
ヴィオレは、ハイジアとしての失敗作である。
実戦に投入可能という意味では、一定の成功は収めている。ただし、それは他のハイジアとは違う運用方法で、限られた状況下でのみ、という注釈がついた上での話だ。
本来、ハイジアがペストに触れられるほど接近する必要はない。今日ヴィオレが戦ったネズミ型ペストは炎を操っていたが、その細胞を加工・培養して少女に埋めこめば「炎を操るハイジア」が出来あがる。
有効射程に個体差はあるものの、ヴィオレのように「体表から五センチ」などといったふざけた短さなど他には存在しない。炎は体にまとって戦うものではなく、遠方へ向けて放射して使うものだ。
ヴィオレの念動力も、本来は広い範囲に有効な能力であるはずだった。元となったペストは、その脅威を存分に発揮している。技術が確立して以来ほとんどハイジアの損耗がなかった百年以上の常識を、たった一匹でひっくり返すほどの脅威だった。
ヴィオレが宿しているのは、十年前、四人のハイジアを犠牲にして浅間が手に入れたペストのDNAである。
その結果が、もはや必要のない近接戦闘型にしかならない失敗作だとしたら──ハイジアに関わる人間が失望するのも無理はない。
ヴィオレは自然と人の少ない道を選んで歩く。各所にある階段でも特に利便性の悪いものを選びながら、神経質に白で統一された科学者の領域からさらに下層へ。次第に人の気配は消え、住みやすさや居心地のよさを無視した金属色が目立ち始める。
浅間の最下層を陣取っているのは、ひとつの巨大なコンピューターだ。八脚で支えられた金属製の球体から血管や神経のようにケーブルが生え、柱を伝って上層へ続いている。人間が下りるための階段はケーブルを避けるように取りつけられていて、だから利便性など欠片も考慮されていない。
曲がりくねった階段を降り、ヴィオレは浅間の最下層へ辿りついた。定期的に行われるハードメンテナンス以外、人の出入りはほとんどない場所だ。
それもそのはずで、巨大コンピューターには、人が外から操作するためのキーボードやタッチパネルといった入力装置はもちろん、液晶画面などの出力装置すらない。代わりにあるのは、マイクとスピーカーだけだ。
巨大な球体を支える柱の一本へ手を触れ、ヴィオレはマイクへ声をかけた。