第97話 同盟機構に奉職する身として引けないこと
「そうか。なら同盟の妨害工作が動き出すと。その命令はどのレベルからの指示だか教えてもらいたいな。妨害の内容は別として遼州同盟加盟国の首相としてそのくらいのことは教えてくれても良いんじゃないかな」
甲武も遼州星系同盟機構の構成国家である。比較的緩い政治的結合により地球圏からの独立を確保する。その目的で成立した同盟機構には超国家的な権限は存在しない。そのことを言葉の裏に意識しながら西園寺義基は血のつながらない弟に詰め寄った。
「同盟機構の最高レベル。そう言うことにしておきますかね。それこそ構成各国の首脳にすら秘匿されるレベルの物……だって義兄が知らないってことはそう言うことでしょ?察してくださいよ」
嵯峨のその言葉は西園寺義基の予想の中の言葉だった。しかし、それは最悪に近い答えだった。
この甲武国は『鏡の国』と呼ばれる帝国だった。遼州独立戦争。この星系に棄民同然に送られた人々と、先住民族『リャオ族』の同盟が地球の支配に反抗して始まった戦争で甲武の祖先達は独立派の中で数少ない正規部隊として活躍し、『リャオ族』の巫女であった
当時の遼州の各国家の意識はどれも国家意識と呼べるようなものではなく、独立の象徴として祭り上げられた巫女、遼薫を皇帝として元首に据えることを甲武は選んだ。そしてその名代として一枚の『鏡』をここ金鴉殿に設置してその国の柱石とした。それは甲武では『御鏡』の名で国家の象徴とされ、ここ金鴉殿の中枢に鎮座していた。
しかし、初代皇帝遼薫は国を閉ざして両国は決別し、甲武国は『皇帝不在の帝国』として今度は遼州内国家でのパワーゲームの一つの極をなす国家となった。
そしてその『御鏡』の前で行われる今日の殿上会。それはあくまで遼帝国皇帝から賜った国家の象徴。イソップ童話で言うところの蛙に与えられた木の棒のような存在だった。そして、その意味を嵯峨も西園寺義基も深く理解していた。
にやりとその意味を悟って笑う弟の姿に西園寺義基は背筋の凍る思いがした。
「それじゃあ、失礼するよ。ああ、そうだった康子が帰りには必ずうちに寄るようにって言ってたぞ。その意味……分かってるだろうな?ああ、あれだけ康子に痛めつけられた新三なら言うまでもないか」
そう言って西園寺義基は立ち上がった。彼は義兄の発した彼の妻からの伝言に次第に青ざめていく弟を見ながら笑顔で『茶臼の間』を後にした。
「
おもわず嵯峨から本音が口に出た。その様子が本当におかしかったらしく、かえでは笑いを堪えることが出来ず小さく微笑んだ。