1話 夕暮れに思う It's too early for twilight
城塞都市 フォルグランディア
街の周囲を50グランスを超える石壁で囲まれている街だ。
夕焼けの空を街の外の黄金色一色の穀倉地帯から微かな風が吹く。
石壁の上で街の外を眺めていると
コツンと僕の背中に拳が当たる。
「黄昏てるの?」
金色の髪を風になびかせ女性がほほ笑む。
耳が長く尖っており、茶色のローブで全身を覆っている。
エルヴィナ 異世界で初めて会った女性だ。
「黄昏れるにはあまりにもきれい世界だ。」
「それ新しい口説き文句?」
「そ そういうわけじゃ」
「サトー!肉買ってきたぞ 食うか」
大柄の女性が巨大なこんがり焼けた骨付き肉を2~3本束ねている。
筋肉質で引き締まった背には巨大な斧をかついでいる。
ヴィヴェルブ 俺が会った中で最強の武人だ。
「ちょっともらうよ」
俺は肉をナイフで割いて少しだけほおばる。
「エルは豆だろ」
ヴィヴェルブがエルヴィナに豆の入った革袋を手渡す。
「さすがヴィヴ って生の豆じゃない!」
エルヴィナが突っ込んだ直後にふわりと上空から長身の女性が舞い降りる。
「豆が生なら炒ればいいではないかえ。妾なら手をかざすだけじゃ。」
「ルシ!あんたがやったら焦げるから」
「ルシ 来てたんだな。」
ルシェル ただの人ではないが、今でもよく頼る博識の仲間だ。
「妾は常にお主の傍におるぞ」
ルシと呼ばれた長身の女性がふわりと俺の首に手を回す。
「ほれ」
俺の首をすーっとくすぐる。
「おいおい あたしだっていつもいるよなぁ?」
大柄の女性が俺の頭をがっちりホールドする。
「く くるじい」
ラリアット気味に2人につかまれ首が変な方向に曲がりそうだ。
「じゃ じゃあ私も」
エルが俺の腹に抱き着く。
「はははっ!これじゃ両手に花じゃなくて全身に花だな。」
ヴィヴがぐっとホールドを強める。
「妾以外は大年増どもばかりじゃがな。」
「「お前が言うな!」」
エルとヴィヴがハモる。
確かに3人とも俺より2周り以上は年上だ。
人種も俺が異世界人、彼女たち3人も全員異なるので単純に数で比較していいのかは分からないが。
だが気持ちだけはつながっている。
外から見ればハーレムというやつなのだろうが
現実はいつも苦労が絶えない。
現に俺の首は限界のきしみを上げ始めた。
「うっ そろそろ2人ともはなしてくれ。首が折れる。」
まさかこっちに来てこんなことになるなんてな。
「じゃあ こうだな」
ヴィヴが俺の体を担ぎ上げる。
「ちょっと」
「独り占めはようないぞ」
街の中心部にある城の頂上に立てられた石碑が夕焼けに光る。
この異世界で彼女達と共に戦った日々を思い返す。
激動の日々を。