第54話 慣れないファーストクラスの旅
豊川駅前から出るリムジンバスを利用して成旗の空港に到着した嵯峨はいつも通り甲武行きの定期便のファーストクラスの個室に乗り込んだ。
『この度は甲武国営航空をご利用いただきましてありがとうございます。当機は成畑、鏡都行き……』
キャビンアテンダントの機内放送が嵯峨の乗るファーストクラスの個室にも響いていた。
「居心地悪いな。俺はもう『小遣い三万円』で『四畳半のアパート生活』に慣れちまってるからな……どうにもこういう気取った場所には慣れないねえ」
嵯峨は思わずそんな独り言を口にしていた。この便を予約したのはかなめの妹かえでだった。嵯峨は強硬にエコノミークラスに乗りたいと主張したのだが『叔父様には四大公家末席の当主たる自覚は無いのですか』と念を押されてしまえば、嵯峨としては反撃のしようが無かった。仕方なく嵯峨はこうしてファーストクラスの個室でのんびりと時を過ごしていた。
機体はゆっくりと動き出し、宙に舞い上昇を開始した。
「この衝撃ならあの『もんじゃ焼き製造マシン』の神前にも耐えられるかな?アイツが甲武に行くときはファーストクラスを手配しておいてやろう。なあに『悪内府』の威光とやらをちらつかせれば権威に弱い国営航空の窓口なんかは格安で案内してくれるだろうし」
いつものように嵯峨はろくでもない悪だくみを巡らせていた。
『これより当機は通常空間から亜空間へと転移いたします。その際、衝撃が襲うことがございますので、各自、座席のシートベルトの着用をお願いいたします』
「はいはい、シートベルトね」
アナウンスに促されるようにして嵯峨はゆったりとしたファーストクラスの個室の端に設けられた座席に座りシートベルトを締めた。
「それじゃあしばらくは眠るか」
それだけ言うと嵯峨はすぐに眠りについた。長年の戦場での経験で眠りにつこうと思えばすぐに眠れるのが嵯峨の取柄だった。
亜空間から実空間に出る時特有の揺れが起きるまで嵯峨は熟睡を続けた。
『ただいま超空間飛行を終了いたしました。これより通常飛行にて甲武鏡都に着陸いたします』
シャトルにアナウンスが響くのを聞きながら嵯峨はとりあえず伸びをして辺りを見渡した。
東都、甲武鏡都間の直行シャトルのファーストクラスの個室。そこに乗り込むところから着流し姿の嵯峨は好奇の的だった。嵯峨が甲武四大公の一つ嵯峨家の当主だと知っていれば、すれ違う客達も納得をしただろうが、そんなことに気づく客はいなかった。ただその腰に差した日本刀を見てなぜ乗務員がこれを取り上げないのかと不安がっている様子を見て嵯峨は面白がっていた。
シャトルががくんと大きく揺れた後、水平飛行に入ったようで安定した状態になった時、客室の扉が開いてキャビンアテンダントが姿を現した。
「大公様。あとに十分ほどで四条畷空港に到着いたします」
冷たい感じのキャビンアテンダントの声に嵯峨は巻いていたベルトを外した。