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オークの村の救世主になろう 2

 バラは警戒しながらもそれを受け取り、ちらりと姉妹を見た後、礼も言わずに家から去っていく。

 その後そこらじゅうからポッポポイポッポポイという奇声が聞こえてきた。

 モモは更に声を荒げてベッドにしがみ付くように泣き崩れて言葉になっていない感謝の言葉をムツヤに告げる。

「わりがどうごじゃいまずムツヤどのぉ~」

「い、いや、わかりました。良いでずがらモモさんってば!」

 しばらく経った後、村のオークがモモ達の家へと入り、深々とムツヤに頭を下げた。

「先程の非礼をお詫びします。村長が話をしたいそうですので、どうかお越し下さい。モモも来てくれ」

 ムツヤは頷いて「はい」と言うと「行くよモモさん」と泣きじゃくるモモの手を取って立たせ、そのオークの後に付いて行く。

 案内されたのはオークの村の集会場だ。

 ドアを開けると、人間が3人は座れるであろう椅子にオークの村長がどっしりと座っている。

「私はこのオークの村の村長でロースと言います。ムツヤ様と言ったか、この度は何とお礼を申し上げていいか」

 そう言って椅子から立ち上がり深々と礼をした。

 先程の荒々しさは消え、知的で落ち着いた老人の態度だ。

「いえいえそんな……」

 ムツヤは照れくささと、塔で拾っただけの薬でここまで感謝されることに申し訳無さを覚える。

「我々が勘違いをし、ムツヤ様に非礼の限りを尽くしたにも関わらず、皆を救ってくれたと聞いております。何度お礼を申し上げても足りません」

 どうぞお掛け下さいと促され、椅子に座ろうとする。

 そんな時に集会場のドアを荒々しくバタンと開けて、一人のオークが飛び込んできた。

 例の如くムツヤを疑い続けるオークのバラだ。

「村長、その人間はきっと自作自演をしている! 今度は油断させて殺そうって考えだ!」

「よせバラ!!」

「なんて事を言うんだお前は! ムツヤ殿はそんな方ではない、貴様もムツヤ殿の強さは知っているだろう? 仮にムツヤ殿がオークを憎んでいるのであれば我々は今頃全滅している!」

 モモは怒りの目をしてバラを睨み、怒鳴りつける。

「黙れブス! 俺は信じない、人間なんかみんな死ねば良いんだ!」

 そう言ってバラは背負っている斧に手をかけようとしたが、モモは剣を抜いて飛びかかり喉元の前で止めた。

「いい加減にしろ、バラ…… タンおばさんの事は本当に残念だし気の毒だと思う。だが、憎むべき相手は選べ」

「っぐ、強えぇからって調子に乗んなよブスが!」

 そう捨て台詞を吐いてバラと呼ばれたオークは去っていく。

「どうかお許しくださいムツヤ様、あの者は襲撃によって母を失ったのです」

 さっき(まで)のムツヤのバラに対する印象ははっきり言って良いものではなかった。

 しかしその話を聞いて不快感は同情に変わる。

 自分だってじいちゃんを殺されたら多分…… 相手を一生許さないだろうし、仇討ちをしに行くだろう。

「いえ、気にしでいません。同じ立場だっだら俺もあんな感じになるでしょうし……」

 そこで気になっていた事をロースはムツヤに質問する。

「しかし、何故ムツヤ様はこの村の近くに居たのだろうか? 疑うわけではありませんが。それにあの薬は一体」

「あっ、そうですね。簡単に言うと俺…… じゃなくて私の家はものすごーぐ、それはもう本当に田舎でして、人間は俺じゃなくて私と」

「あのームツヤ様、話を遮って申し訳ないが無理に私と言わなくても結構なのだが……」

 背伸びをするムツヤを見かねてロースは断りを入れておいた。

「あーじゃあ俺とじいちゃんの二人しか居なぐでですね、周りは結界で囲まれてたのですよ」

「結界で……?」

 モモとロースは互いを見つめ合って不思議そうな顔をし、視線をムツヤに戻す。

「失礼ですがムツヤ様、住んでいた場所の名前は何というのでしょう、もしかしたら何か分かるかもしれませんので」

 村長のロースは至極当然な質問をする。

 だが、その質問にはムツヤも困ってしまう。

「うーん…… 今まで気にしたことも無かっだし、じいちゃんも『田舎』としか言わなかったから…… そう言えばわからないです。聞いておけば良かった……」

 確かに閉じた空間に住んでいるのであれば、そこが世界の全てだから地名なんて物は無いのだろうとモモは察した。

「そうですか。いえ、お話を遮ってすみません」

 ロース村長はそう言って少し考える。

 確かに変に知らない地名が出るよりもその答えの方がしっくりと来る。

「そんなある日、俺はこの本を拾いましで。外の世界には冒険者ってのが居で、女の子とハーレムっでの作るんだと思ったらドキドキして眠れなくなっで」

「えっ」

 ムツヤが急にとんでもない大火炎魔法の爆発級発言をしてモモは固まる。

 村長も思考がピタリと止まってしまった。

 手に持っている本の表紙には際どい格好をした女のイラストが描かれている。

「俺もハーレムを作りたいと思っで、それでじいちゃんにお願いしで外の世界へ出してもらっで、気が付いたらあの森に居たってわけなのですよ」

 モモとロースは話を整理するために考えた、ムツヤ殿は結界に住んでいた。

 ここまでは、まぁわかる。それでハーレムを作るために外の世界に来たと言っていた。

「ちょっと待って下さいムツヤ殿、ムツヤ殿はえーっとその…… ハーレムを作るために冒険の旅へ出たのか?」

「そうです!! 話を読むだけでドキドキするのですがら、きっど作っだら凄い楽しいに違いないと思っで」

 子供のようなキラキラした笑顔を作って、最低のゲス男みたいな発言をする村の恩人に、自分は何と言えば良いのだろうかとモモは悩んだ。

 多分、ムツヤ殿はハーレムというものを勘違いしていると。

「ムツヤ様…… そういったハーレムを作る人間も確かに居ることは居るでしょうが…… 夢を壊してしまい申し訳ない、一般的にハーレムなんて作れないし、作らないのです」

 モモの代わりにロースが言いにくい事を伝えてくれた、するとムツヤは衝撃を受けて固まってしまう。

「そうなんでずか!?」

「まぁ……」

 ロースにそう言われると分かりやすいぐらいにムツヤは落ち込んだ。

 今にも口から魂が抜け出ていってしまいそうだった。

「あの、ムツヤ殿、そこまで気を落とされずに」

 男がハーレムを諦めた。

 それだけ聞けば、馬鹿な夢から目覚めて身の程を知っただけの事なのだが、モモは何だかいたたまれなくなり、ムツヤを励まそうとする。

「そうですね、せっかく苦労して家を出たんですから、これぐらいで俺は夢を諦めません」

「えっ」

 短い間だがムツヤの事を何となくわかっていたモモは悟ってしまった。

 雲行きが怪しくなる、またとんでもない事を言い出すと。

「本の冒険者も夢は諦めなければ叶うと言っでましだし、それで、最後は魔人を倒しでいましだ。俺はそのハーレムを作るためにこの世界に来たんです、ですがら絶対にハーレムを作っでみせます。夢は諦めません!」

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