第四話 なんか刀まで変な感じになってるんだけど!?
体が変化したことで服とズボンが破けてしまった。すっぽんぽんだ。
とりあえず破れた服とズボンを使い、腰布にする。誰もいないとはいえ、股間ぐらいは隠したい。身長も190センチぐらいになってるな。前まで170ちょっとだったのに。
髪の毛は……あるな。この182日で伸びた髪がある。って、なんで髪があったぐらいでホッとしてんだ! リザードマンになってんだぞ俺は!
「神竜の肉を食ったことは後悔してない……してないけどぉ……!」
ええいっ! ショックを受けている場合か! プラスに考えろプラスに!
俺はこれで上級冒険者を遥かに超えるステータスを手に入れたんだ。神竜脱出の可能性が大幅に上がった。
考えろ。このリザードマンの体を使ってどうここを脱出する?
勢いつけて肉壁に突っ込むか? ダメだ。下手したらそのまま肉に取り込まれる。
炎でも吐ければそれで壁を――無理だ。神竜は炎に耐性を持っている。
直接触れて破るのは危険だ。ならば間接的に接触できる道具が必要。
「そうだ!」
今なら、
「……迎えに来たぜ」
俺は血の泉――我が愛刀ヒグラシの眠る場所へ戻ってきた。
「いやホント、いつかはちゃんと抜こうと思ってたんだよ。うん。なんたってお前は俺の愛刀だからな。うん」
なんて言い訳を聞かせたところで、俺は刀の柄を握る。
「ぬん!」
思い切り力を入れて刀を引く。
ぶちぶちぶち。と音を立て、刀に絡みついた肉の繊維が剥がれていく。
「うおおお、らぁ!」
バツン! と音が鳴り、刀は肉の床を離れた。
俺は刀をまじまじと観察する。以前と、纏っているオーラが違う。
驚いたのはその刀身の色だ。黒と赤の二色になってる。
「あれぇ? お前、こんな色だったっけ?」
いや、前までは刀身は白かった。刃は白で峰は黒だった。それが今や基本真っ黒で、刃紋は赤だ。黒刀、ってやつか?
「ん?」
《魔導書の装備を確認しました》
《魔導書名『
魔導書、ってのは特殊な効果を持つ武装のことだ。火を纏う剣とか、伸びる槍とか、そういうのだな。
『神竜刀』……これまた恐らくだがこの刀、ずっと神竜に刺さってたから、俺と同じようにヒグラシも神竜の性質を吸収し、変質したのだろう。
俺は血の泉の中から鞘を取り出し、刀を収める。
ん? なんか鞘も血に浸していたせいか、赤い紋章みたいなのが浮かんでいる。ただのシミか? まぁいいか。
「炎・雷・風・光から一つ選択できる、か。それなら――」
炎装填。
「おら!!」
刀を抜刀する。すると、抜刀の一振りに炎が帯びた。
「凄いよ? 凄いんだけどさぁ」
神竜ってこの四属性全部耐性持ってるよね!?
「とりあえず、一回試し切りだな」
俺はまた肉壁の前に行く。
腰を落とし、左手で鞘を押さえ、右手で柄を握り、抜刀の構えをする。
選択属性は――光。
「せいっ!」
抜刀する。すると、さっきとは比べ物にならない速度で刀が動いた。壁が斬り裂かれ、血が噴き出す。だが、すぐさま壁は再生した。その後、何度も連続で斬り付けるも、壁の再生スピードに負け、突破はできなかった。
ただ収穫はあった。
この刀、どうやら纏う属性によって攻撃の性質が変わりやがる。
「炎」
壁を使って試し斬りする。
まず炎。炎属性の抜刀術は切り口を発火させるようだ。ただ神竜は炎に耐性を持っているため、すぐ消火されてしまうがな。
「雷」
雷は一撃の威力が高い。その分、他の斬撃に比べ遅いように思える。必殺の一撃、ってやつだ。
「風」
風は斬撃が飛ぶ。カマイタチを生み出すようだ。
ただカマイタチは肉壁には無効化されてしまうっぽい。
「光」
光はとにかく速い。最速だ。他の二倍ぐらいの速度で抜刀できる。
凄い。これを使い分ければどんな魔物だって倒せる気がする。
この肉の壁を突破するには……炎と風はダメだ。炎そのもの、風そのものは神竜には効果がない。
使うべきは、あれだな。
「ふう~……」
抜刀属性は光。速度重視だ。
「抜刀」
まず光速の一撃。だがここで終わればこの壁の厚みは突破できない。
勢いを殺さないように刃を返す。同時に踏み込む。
二撃、三撃と繰り返す内に、抜刀時の勢いは死に再生速度に負ける。俺は後ろへ飛んで肉の壁から逃れる。
「一撃目の勢いそのままで、もっともっと攻撃を重ねていかないとダメだ」
190日目。四連撃まで成功。
195日目。六連撃まで成功。
201日目。七連撃まで成功。
202日目――
「抜刀」
光速の一撃を肉壁に喰らわす。
さらに連続で、勢いそのままに刃を振るう。
下り坂を全速力で下って、その勢いのまま上り坂を上っているようなモノ。歩数を重ねるほど、斬撃を重ねるほど、苦しくなっていく。
五、六、七……!
これが限界か。否、もう一歩……!
「うおおおおおおおおおっっ!!!」
八連撃目!!!
「っ!?」
目の前から、肉壁が無くなった。突破できた。
八連撃でようやく突破できた。
この光の抜刀から始まる八連撃を、俺は“