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第二話 28年振りの新スキル

「ん……」

 目覚めたのはヌメヌメの水たまりの上だった。
 体を起こして周囲を見渡す。薄ピンクの洞窟がずっとずっと先まで続いていた。

「ここは……神竜の体内なのか? つか俺、生きてんのか……?」

 体内というより、ホント洞窟みたいだ。瓦礫があったり、草が生えていたりする。このヌメヌメの水は胃酸だろうか? 匂いは無臭だ。
 とりあえず立ち上がって歩いてみる。歩けど歩けど薄ピンクの洞窟が続くだけだ。

「やべ……ふらついてきた」

 雪山を登山した疲労と、さっき全力疾走した疲労。このWパンチで俺のスタミナは尽きていた。
 ぐぅ~、と腹が鳴る。そろそろ食事をとらないとまずいな。
 その辺の草でも食べるか。いやでも、今は血肉になるモノが欲しい。肉が食べたい。俺は辺りを見て、この薄ピンクの床……神竜の腸? に目をつける。

 ……いやいや、さすがになぁ。

 腰に差した武器――刀を撫でる。
 昔、なけなしの金集めて買った片刃の剣。極東のとある小国でしか生産されない名品。ただのかっこつけで買った物だが、切れ味は鋭い。しっかり研いできたしな。俺は四流だが、この刀は一流だ。神竜の腸も切り取れるかもしれない。

 俺は刀を鞘から抜き、床に突き刺した。

「ん!?」

 刺した場所から血が噴き出す。刀を中心に、血の水たまりができた。

「がっ! 抜けねぇ!」

 腸から粘膜のようなモノが出てきて、刀を掴んで離さない。俺は仕方なく刀を手放し、水たまりから出る。

「……さらば。名刀ヒグラシよ」

 愛刀に祈りをささげる。正直重かったから、ちょうどいいしここに置いていこう。鞘も置いていこう。
 それより飯だ。どうする?

「いっそ噛みついてみるか?」

 さっき刀を刺してみた感じ、床はそこまで硬くない。ただ再生能力みたいなのがあって、傷つけられるとすぐさま修復するのだ。その修復に巻き込まれると俺の愛刀のようになる。

 ならば、素早く噛みちぎってしまえばいいのでは?

 物は試し。俺は床にガブリと噛みつき、肉を噛みちぎる。

「むぐっ!?」

 口の中で弾ける肉汁。全身に広がるうま味!

 うんま!!?

 ちょっと歯ごたえは強いが、凄まじい肉汁! 調味料なしでもしっかり塩味がついている!! 最高級のハツを食べている気分だ!

 俺は夢中になって食べまくった。

 普通、こんな得体の知れない物を口にするなんて馬鹿だ。でも俺にはユニークスキル『鋼鉄胃袋(アイアンストマック)』がある。
 十歳の時に目覚めたこのユニークスキル『鋼鉄胃袋(アイアンストマック)』は、簡単に言うと腹を壊さないという能力。いかなる毒を食っても腹を壊さない。俺は生まれてこの方食中毒とか、下痢とかになったことがない。

 ま、戦闘にはまったく役に立たないゴミスキルなんだけどね。こんなにこのスキルに感謝したのは生まれて初めてだ。おかげで熱処理もなにもせずとも不安なく食べれる。

 やべぇ。涙が出るぐらいうまい。

「はーっ! うまかった!」

 腹は満ちた。後は水だな。
 このヌメヌメは水分にはなりえない。飲んだらネバネバで喉が詰まりそうだ。となると、他に水分になりそうなのは……。

「これだな」

 俺は刀が刺さり、できた血の泉に近づく。
 神竜の血。それを両手に溜めて、飲んだ。

「うっまぁ!!」

 なんだコレ!? 例えるなら、最高級の激ウマフルーツを20個ぐらい絞って作ったミックスジュ―ス! 甘い! しかも体に活が入る。全身に力が漲る! 冒険者が良く飲む活力剤、リバイヴジュースの側面もある!

 あれかな。神様が最後に用意してくれたご褒美なのかもな。あまりに不遇過ぎた俺の人生の最後に用意されたデザート……いやいや待て待て。諦めるのは早いだろ。

 壁や床を破って外に出るのはまず無理だな。すぐ再生するし、最後には超硬い鱗に行きつくだろうし。となると、口か肛門を探そう。
 ヨルムンガンドの全長は18km。往復で36km……たるいな。でもやるしかない。
 腹も喉もよし。動こう。
 神竜の中を歩いていく。

「あれ?」

 歩き出してから1キロメートルぐらいの地点、行き止まりに着いた。薄ピンクの壁に行きついた。
 途中、分かれ道はなかったよな……。とりあえず引き返そう。
 血の泉を越えて、また1キロぐらいの地点。
 また薄ピンクの、肉の壁だ。

「……どういうことだ?」

 この壁から向こうの壁まで一本道。その両側が壁で塞がっている。なら、俺はどこからここへ来た?
 まさか、まさかだが……神竜は物を食べた瞬間だけこの肉壁を消しているんじゃないか? 肉壁を消し、獲物が体に入った後で、肉壁を復活させ閉じ込める。後は壁の中で獲物が死ぬのを待ち、栄養に変える。そういう消化の仕方なんじゃないでしょうか。

「マジかよ……」

 手詰まり。オッサン手詰まりです。
 あとできることと言えば、この空間でひたすら生き延び、誰かが飲み込まれたタイミング、壁が消えたタイミングで脱出。それしかない……。

 神竜の肉と血を喰らう。眠る。
 肉と血を喰らう。眠る。
 余裕ができたので筋トレもし始める。眠る。

 3日、10日、100日と過ぎる。

「って、全然誰もこねぇ!」

 血を取りに行く時以外、ずっと壁の前で待機しているのに一切開かない。そもそも神竜は強い敵意を見せられない限り、人間を攻撃しない。というか、普段は食事すらとらないって噂だ。口にモノ入れることは大変珍しいことである。

「……もうヤダ。お家帰りたい……」

 なんてしくしく泣いている時だった。
 万識の腕時計(ワイズウォッチ)がピコン、と光った。時計を見てみると、液晶に文字が浮かんでいた。

《スキル『神竜眼(しんりゅうがん)(ランクEX)』を取得しました。神竜眼のスキル説明:相手の弱点部位・弱点属性を見切る。暗闇・眩光無効》

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