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第18話 もう1人のシロガネ

「ファクトリーを――」
「作るだと?」
「肯定だ」

 ヴィヴィはブドウ糖スティックを咥える。

「昨日言っただろう、私の目的。フラム君にも家で語ったはずだ」
「ああ。賢者の石の錬成だろ?」
「そう。私は賢者の石を目指すファクトリーを作る。既存のファクトリーに賢者の石を目標としたファクトリーはなかったからね。自分で作るしかない」
「で、でもファクトリーってそんな簡単に作れるのですか……?」

 フラムは俺とヴィヴィの顔を交互に見る。

「さぁ。これからジョシュア先生にファクトリーを作る方法を聞きに行くつもりだよ」
「ファクトリーを作る、か。面白そうだな。俺もついて行っていいか?」
「構わないさ。むしろ歓迎だね」
「じゃ、じゃあジブンも行きます!」

 そういうわけで、俺とヴィヴィとフラムの3人でジョシュア先生が居るモデルファクトリーの研究所に向かった。


 ---


 校舎の南廊下。
 そこにモデルファクトリーの研究所はある。

「ここか」
「そのようだね」

 鉄製の両開きドア。色から油が染み込んでいるのがわかる。
 中に入る。
 部屋の中には20人ほどの生徒が居た。十数人の生徒が窯に向かっており、残りの生徒は窯ではなく工具を手に義肢を改造していた。
 義腕や義脚はもちろん、義歯や義眼もある。義眼は水槽のような透明のケースに入れられ、多数の管によって管理されている。人間の眼球に比べ、機械っぽい。

「ようこそモデルファクトリーへ。このファクトリーでは(おも)に義肢の開発をしている」

 ジョシュア先生が俺たちの前に出てきて言った。

「凄いですね。展示されている義肢はどれも、高度な素材、高度な技術で作られている……」

 ヴィヴィが素直に称賛した。

「そりゃ売り物だし、手は抜けないよ」
「売り物? ファクトリーは物を売ったりもできるんですか?」

 俺が聞く。

「ああ。大多数のファクトリーがファクトリーで製造した物を売って研究資金にしている」
「学校側から金銭面に対する補助はないのですか?」

 ヴィヴィが聞く。

「学校から研究費用は貰えるが、それだけじゃ十分な研究はできない。より高次元な研究をするためにも、金は自分たちで稼がないとな」

 さて。とジョシュア先生は一呼吸置き、

「ただ見学に来たわけじゃないだろう?」
「はい。先生に聞きたいことがあります」
「こっちのテーブルで話すか」

 案内された鋼鉄のテーブルを囲み、席につく。

「それで聞きたいことって?」
「ファクトリーの作り方を教えてくれませんか」
「つまり、お前は新しいファクトリーが作りたいんだな?」
「はい」
「コンセプトは決まっているか?」
「賢者の石の錬成を目標としたファクトリーを作りたいのです」

 ジョシュア先生は微かに目を細めた。

「それは難しいな。賢者の石は錬金術師の到達点の1つだ。学生が手を出すのは早いって、上に怒られるのがオチだ」
「しかし……」

 ヴィヴィは食い下がろうとするが、ジョシュア先生がそれを許さない。

「それに賢者の石の錬成に挑むのは危険が多い。俺としても容認はできない。それともなにか手立てでもあるのか?」

 爺さんの手記がある。アレは一応手立てと言えるだろうな。
 でも、あの手記のことは他言無用。ジョシュア先生にも言うわけにはいかないだろう。

「ないです……」

 ヴィヴィはそう答えるしかなかった。

「そこを狙いたい気持ちは同じ錬金術師ならわかる。だが焦るなよヴィヴィ。焦りは錬金術師を殺すぞ」

 説得力のある言葉と表情だった。

「せっかくの才能を殺すような真似はするな」
「はい」

 ヴィヴィはジョシュア先生の言葉を真っすぐ受け止める。

「ちなみにもしコンセプトがOKだったら即ファクトリーは作れるんですか?」

 俺が聞くと、ジョシュア先生は首を横に振った。

「いいや、ファクトリーを作るには顧問が1人と、団員が4人必要だ」
「そうですか」

 どっちみちコンセプトが通ってもファクトリーを作るのは難しいな。賢者の石の作成、それは無謀なことらしい。その無謀な挑戦に付き合ってくれる人間をあと3人も集めるのは至難の技だ。

「もう1つ質問なんですけど、人造人間(ホムンクルス)を研究しているファクトリーってありますか?」

 ジョシュア先生は俺の質問を受けて、なぜか硬直した。

「? どうしました?」
「いや、ははっ! ――血は繋がってないはずなのになぁ」

 ジョシュア先生は笑う。

「残念ながら人造人間(ホムンクルス)を研究しているファクトリーはない」
「そう、ですか……」

 『理想の女性(モナリザ)を造る』。
 この目的を果たすためにファクトリーで人造人間(ホムンクルス)の研究したかったのだが……無理か。

「へぇ、お前は人造人間(ホムンクルス)の研究に興味があるのか」
「あります」
人造人間(ホムンクルス)を研究するファクトリーはないが、この学校には人造人間(ホムンクルス)研究の第一人者が居る。紹介してやろうか?」
「……! ぜひ!」

 ジョシュア先生は立ち上がり、棚から一枚の地図のような物を出し、渡してきた。

「奴は東にある“四季森(しきもり)”に研究所を構えている。これが四季森の地図だ。奴の研究所の場所も描いてある」
「それで、その人の名前は……?」
「奴の名前は――」

 ジョシュア先生は俺の顔に視線を合わせる。

「コノハ=シロガネ」

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