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第2話 朝影姉妹

 校舎屋上。
 そこで俺は双眼鏡を持ち、校門をくぐる生徒を監視していた。

「銀髪……銀髪……銀髪……」

 朝の7時から1時間ぶっ通しで監視している。
 わかってるんだ、Vチューバーの魂を探るなんて外法だということは。

 なのに……クソ! 体が勝手に動いてしまった! 

 かるなちゃまは高校生を自称している(冗談の可能性は大いにあるが)。
 このあたりの高校なんてここしかない。

 とは言え、電車で市外の高校に通う奴なんてザラだ。この高校出身じゃない可能性も高い。
 ここだけだ。この高校だけ探らせてほしい。この高校に銀髪女子がいなければおとなしくあきらめることを誓う!

「兎神君……」
「銀髪……銀髪……銀髪……」
「兎神君!!」
「はぁい!」

 背後から女子の声。
 振り向くと、同級生且つ風紀委員の黒崎(くろさき)青空(あおぞら)が立っていた。

 
挿絵



「なんだアオか。悪いが、いま青毛女子には用はないんだ」

 アオとは近所で、子供の頃からよく遊んでいた。いわゆる幼馴染というやつだ。

「君が用なくても私はあるの。屋上は立ち入り禁止って知ってるでしょ?」
「頼むアオ! 今日だけでいいんだ! 今日だけ見逃してくれ!」
「……なにか訳あり?」
「銀色の髪の女子を探してるんだよ。そうだお前、結構顔広いよな? 銀髪女子に心当たりないか?」
「あるわよ。銀髪……って言ったら2人ほど候補が居るわ」
「マジか! 教えてくれ!」
「教えたら屋上から退いてくれる?」
「もちろん!」

 アオは「仕方ないわね」と肩を竦め、その2人の候補を教えてくれた。

朝影(あさかげ)綺鳴(きなり)ちゃんと朝影(あさかげ)麗歌(れいか)ちゃんよ」
「どっちも知らねぇな。てか、苗字が同じってことは姉妹か?」
「ええ。綺鳴ちゃんは二年生、麗歌ちゃんは一年生。綺鳴ちゃんは不登校気味で、多分今日もいないけど、麗歌ちゃんは登校するはずよ」
「よし! じゃあその麗歌ってやつのクラスを教えてくれ!」
「……まさかとは思うけど、ナンパするつもり?」

 ジトーッと厳しい目つきでアオは見上げてくる。

「違う。俺はただ知りたいだけなんだ……彼女が月なのか鐘なのか」
「――はぁ。兎神君ってたまーに意味わからないこと言うよね。ま、君に限ってナンパはないか。そんな度胸ないもんね」
「ぐっ……! アオ、テメェ、情報を提供してくれたことには感謝するが今のは聞き捨てならないぞ」
「だって事実でしょ? 伊達に幼馴染やってないって。私以外の女の子と上手く喋れたことないもんね~」

 アオはそう言ってくすりと笑った。
 くそ、言い返せない自分が恥ずかしい。


 --- 


 1年5組。
 ここに朝影麗歌という銀髪女子が居るらしい。
 クラスの前の窓際に背を預けて待つ。
 今は昼休みだ。学食に行くため、多くの生徒が外に出る。人が多い時に突っ込むのは怖いから、人が減るのを待とう。

「……あれ、上級生……?」
「……知らないの? 二年の兎神先輩よ。うちの番長……」
「……1対100で勝ったって伝説があるらしいぜ……」
「……目、合わせたら殺される……!」

 ブツブツと一年生の陰口が聞こえる。
 いろいろと尾ひれがついているな。
 別にこの高校の番長なんてやってない。喧嘩売ってくるやつを全員ぶっ飛ばしたら勝手に番長扱いになっただけだ。
 隣町の不良に囲まれて勝ったことがあるが、相手の数は精々20人だった。
 目を合わせても殺さない。俺は自分から喧嘩を売らないって! 

 さて、そろそろ人が減ってきたかな……。

「あの」

 教室に入ろうと腰を上げた瞬間、声をかけられた。
 俺はその声を聴いて、全身金縛りにあった。なぜなら――

「少し、話を聞いてもいいですか?」

 銀色の髪の女子。
 目は青く、澄んでいる。
 胸は小さくスラッとした体型、身長は160cm近いだろう。ロリ巨乳なかるなちゃまとは正反対の見た目。

 だが――。

 この声は、間違いなく、かるなちゃまの声だ。

「あ、ああ。どうぞ」
「その……実は私、金髪の男子を探していまして。昨夜、コンビニの前で喧嘩とかしてませんか?」

 確定だ。
 このエピソードを知ってるってことは、もう絶対コイツじゃないか。
 だけど、どうも口調が全然違うな……顔も常に無表情でクール。かるなちゃまとかけ離れている。声質こそかるなちゃまと同じだが、声の高さはだいぶ控え目だ。いや、リアルはこんなものか。

「それは俺だ。間違いない」

 しかし、なんだろう……このしっくりこない感じ。
 状況証拠は彼女をかるなちゃまと言っているのに、俺の魂が、納得いってない。

「やっぱり。では、私が姉の代わりにお礼申し上げます」

 そう言って、彼女は頭を下げた。
 え? 姉の代わり?

「ど、どういうことだ? あの不良に絡まれていたのは、お前じゃないのか?」
「いえ、違いますよ。姉が話していたのです。コンビニで変な不良トリオを怖がっていたら、金髪の細眉の人が助けてくれたと」

 朝影――綺鳴か。

「そ、その姉と、会わせてもらってもいいか?」
「は、はい。別にいいですけど、姉は人見知りですし、学校にも来ていないので私の家に来てもらうことになりますが……」
「大丈夫だ!」
「――わかりました。では、今日の放課後、校門でお待ちします」

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