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第17話 モテ男は拗らせ中

 ホレスに向かって怒鳴ってから、気まずくなって飛び出していったオウマ君。だけどこのまま、私達に何も告げることなく帰ったりはしないだろう。

 元々、貴族の屋敷としては大して広くない我が家、探すのにはそう苦労はしない。それどころか、外に出たところであっさりと見つかった。
 落ち込んでいるのか、ガックリと頭を下げてうなだれていたけど、私が近づくと、すぐに気づいてこっちを向く。

「ごめん……」

 真っ先に出てきたのは、謝罪の言葉だった。

「いきなり怒って、怒鳴りつけて、悪かった。先輩にも謝らないと」
「いや、あれはグイグイ来すぎたホレスも悪いと思うから。それに、オウマ君は私に迷惑かけたくないから、あんなに嫌だって言ってくれたんでしょ?」

 それまでは、ホレスの無茶振りに嫌々ながらも律儀に付き合ってあげたオウマ君。なのに生気を吸いとる事だけは頑なに拒んだ理由は、きっとそれだ。

 自らの持つ魅了の力を嫌っているオウマ君。その力で、人の心をねじ曲げていると罪悪感を抱えているオウマ君。そんな彼な、人の生気を吸いとるなんてことも、絶対にしたくなかったんだろう。まだ短い付き合いだけど、そのくらいは察しがつく。

 なのに、オウマ君は力なく首を横にふる。

「そんなんじゃない。俺はただ、自分が悪者になるのが嫌なだけだよ。元々、周りの心をねじ曲げてるような奴だ。その上、生気まで吸いとったりしたら、そんなの本当に悪魔みたいじゃないか。そうなるのが怖い、ただそれだけなんだ」

 こんな風に落ち込むオウマ君を見るのは、これで二度目だ。一度目は、今日の昼休み、エイダさん達に詰め寄られた後のこと。
 その時も、彼女達がああなったのも、元は自分のせいだと言って肩を落としていた。

 そんな彼を見て思う。

「オウマ君ってさ、けっこう拗らせてるとこあるよね」
「うぐっ!」

 正直な感想を伝えると、ショックだったのか、痛々しそうに胸を押さえ込む。だけど、実際拗らせてると思うよ。

「そりゃ原因がない訳じゃないけど、だからってすぐに自分が悪いって思いすぎじゃない?」
「いや、でも……」

 私が一言放つ度に、ダメージを受けるオウマ君。少し前までは学校一のモテ男って印象だったけと、こうして素の彼を知った今そんなのはすっかり崩れている。
 だけど、私はそんなオウマ君が嫌いじゃない。

「でもさ、優しい理由なんて、そんなんでいいんじゃないの?」
「優しい? だから、そんなんじゃないって言ってるだろ」
「そう? だって本当にひどい人なら、悪いことしたなんて思わず、好き勝手するんじゃないの。魅了の力でハーレムでも作って、あんなことやこんなことを……」
「するわけないだろ!」

 真っ赤になりながら慌てて叫ぶけど、それがなんだかおかしくて笑ってしまう。

「ほら、すぐにそう言えるのが、優しいとこだよ。あと、お弁当もくれたしね。優しいんだよ、オウマ君は」

 責任や罪悪感を抱いてしまうのは、仕方のないことかもしれない。でもだからと言って、それを理由に優しさまでは否定してほしくはなかった。

「──なんだよそれ。弁当渡せば、それで優しいやつになるのかよ」

 呆れたように言うけど、あの時おにぎりと引き換えにもらったお弁当は、それはそれは美味しかったんだから。
 そこでようやく、オウマ君から少しだけ笑みがこぼれた。

「そんなの聞いてると、なんだか悩んでるのがバカらしくなってくるな」
「えぇーっ。そうかな?」

 なんだか私が笑われてるみたいで少し不満だけど、このまま落ち込んでるよりは、こっちの方がずっといい。

「先輩にも、ちゃんと謝ってくるよ」
「いやいや。だからあれは、全然関係ないことやらせたホレスも悪いって。私からも言っておくから」

 そんなことを言いながら、ひとまず物置へと戻ろうとする私達。だけどそれより先に、ホレスの方から姿を現した。

「こらシアン。お前は俺をいったいなんだと思ってる。さっきオウマ君に見せたような気づかい、俺にはできないのか?」

 どうやら今の私達の会話を聞いていたようで、不満そうに口を尖らせる。いったいいつからそこにいたんだろう。

「先輩、さっきは怒鳴ってすみませんでした」
「いいって、全然気にしてないから。それに俺も、半分くらいは自分が楽しむためにやってたからな」

 やっぱり楽しんでたじゃない。それに、あれだけしっかり怒られておいて気にしてないってのも、それはそれで問題なんじゃないの?
 ホレスとは長い付き合いだけど、こう言うところが困ったものだ。

「でもさ、もう半分は真面目にやってたんだぞ。悪魔の姿にさせたのも、生気を吸ってみてって言ったのも、そもそもの目的である、力を押さえ込むためには必要だと思ったからやらせたんだよ」
「「えっ!?」」

 ホレスの口からでてきた予想外の言葉。それを聞いて、私とオウマ君は思わず顔を見合わせていた。

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