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 その後リチャードとメラニーは婚約した。

「あら、ライリー嬢、こんばんは」
「こんばんは、メラニー様、こんばんは、レリウス様」

 二人が仲良く揃ってパーティに現れたところに、ライリーは鉢合わせした。

「今晩もご家族で来たのか?」
「あら、リチャード、そんなことわざわざ仰ったらかわいそうですわ。彼女だって、ご家族と来たくて来ているのではないでしょう」

 扇の向こうから、馬鹿にしたようなメラニーの意地悪な笑顔が覗く。
 彼女はパーティなどで会うと、いつもリチャードとの仲を見せつけ、ライリーにマウントをとってきた。

「そろそろ一年経ちますけど、次のお相手は見つかったのかしら」
「残念ながら…」
「まあ、どうしてかしら、ねえリチャード」
 
 メラニーはわざと大げさに驚いてみせた。理由はメラニー本人が一番よく知っている筈だと思いながら、ライリーは苦笑いする。
 しかし、悪評をばら撒いたのは彼女だったとして、その原因はライリーにもある。お金のことばかり気にして、リチャードに対しておざなりだった。
 でも、今更自分の行いを悔い改めるつもりも、生き方を変えるつもりもない。

「私もどなたか良い方がいれば、ご紹介しますわ」
「ありがとうございます。でも、自分のことなので、自分で何とかします」
「なんですって?」
「結婚だけが人生ではないと思っています」

 ライリーの悔しがる様子を見たかった彼女は、やせ我慢をしているだの、無視したなどといちゃもんをつけてきた。
 そしてメラニーとリチャードは翌年結婚した。
 ご丁寧に、ライリーにも招待状が届き、ライリーは、堂々と出席した。
 ヒソヒソと周りがライリーを見て何か言っていたが、彼女は気にしなかった。
 
 メラニーにはああ言ったが、両親には申し訳ないと思っていた。
 彼女はカリベールの一人娘だ。彼女が養子を取らなければ、爵位は父の妹のユリア叔母の子が継ぐことになる。
 両親は家のことは気にしなくていいと言ってくれたが、自分たちが死んだ後、彼女が一人になることは心配している。
 
 そうこうしている内に時は過ぎた。
 カリベール領内の経営は安定し、農民たちの生活も潤った。
 野菜もたくさん収穫できるようになり、形が変だったり、規格外に小さいものは加工して売り出す道の駅のような場所を作った。
 ピクルスや野菜のドライチップ、瓶詰めジャム、瓶詰めスープにソース、野菜を練り込んだお菓子やパンなどを売っている。
 店には農家の女将さんやおばあさんたちに、交代で店番をしてもらっている。副収入になるとそちらも好評だ。
 店の一角には農閑期に作った小物類も置いてあり、喫茶スペースもつくって、店で売っているものをその場で食べられる。  
 マフィンやクッキーなどもあり、行商人たちが小休止にちょうどいいとそちらも評判だ。
 ライリーも時折店先に立ち、売り子をして品物の売れ行きをリサーチしたりしている。

 そんなとき、店にやってきたのがスティーブン・レックスだった。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 見るからに貴族とわかる彼に、ライリーは笑顔で接待した。旅の途中で立ち寄る貴族もいるため、それ自体は珍しくないが、大抵がご婦人を伴った人が多い。男性の、しかも高齢の方が一人で来るのは珍しい。

「友人に美味しいものを売っている所があると聞いてね」

 店内の様子をぐるっと見渡し、彼は愛想よく話を切り出した。

「そうですか。ありがとうございます」

 褒められてライリーは嬉しくなった。

「かぼちゃのジャムに人参まで、ジャムは果物だけではないんだな」
「そうですね。これだと野菜嫌いの方でも食べられると評判なんです。野菜チップスも、お菓子を食べるより太らないとご婦人方にも人気なんです」
「このピクルス、友人に酒の肴にもらった。青い実も、なかなか良かったよ」
「オリーブですね。男性の方には人気です。好き嫌いはありますけど。ブラックオリーブは料理にも使えます。良かったらどうぞ」
「これは?」
「味見用に用意しているものです」

 ライリーは、ブラックオリーブのスライスをドライトマトやチーズと一緒に焼いたパンを差し出した。
 初めて来るお客さんには、味を知ってもらうため、店にある物はすべて希望があれば試食してもらっている。パンもそれ用に切り分けているものだ。

「あ、貴族の方には不躾でしたね。平民の方には好評なんですよ」
「気にしないで。いただこう」

 男性は切ったパンをひとつ取って食べた。

「うむ、サンドイッチなら食べたことがあるが、このように色々混ぜてあるのを食べるのは初めてだ。それにパンも柔らかい」
   
 惣菜パンはこの世界では一般的ではなかったが、それ一つでお腹が満たされると時間に追われている人には人気だ。
 そして天然酵母のパンも珍しい。
 レーズンやベリーなどのドライフルーツとナッツを混ぜたハードパンも、日持ちがすると喜ばれている。

「ジャムは付けて食べる用にクラッカーも用意しています。あちらにテーブルもありますから、紅茶でもいかがですか?」
「なかなか商売上手だね。私が貴族とわかっていても怖じ気付くこともない。あなたがカリベール家のお嬢さんかな」

 彼はライリーが誰かを言い当てた。

「はい。ライリーと申します。閣下」
「スティーブン・レックスだ」
「レックス様。何かお気に召したものはございますか?」
「ああ、そうだな。気に入ったよ」
「そうですか。どれをお包みしましょうか」

 彼が直前に見ていたピクルスか。それとも今食べたパンか。

「ライリー嬢、君だ。君が気に入った。どうだ? 我が家に嫁に来ないか?」

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