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先生、ありがとう

「先生、ありがとう」
「本当にありがとう、さようなら」
俺たちは感謝の言葉を口にしながら、穴の底の先生の上に手向けの花を落した。
ピクリとも動かない。完全に死んでいるようだ。
「で、どうするんだ。このまま埋めても、こんな学校の近くじゃすぐ掘り返され見つかるんじゃないか」
ここは学校の裏手にある山の斜面で、校舎の陰になるので、昼でも人目に付くような場所ではない。が、誰も来ない山の中というわけではない。
「大丈夫、ちゃんと考えてあるさ、まず先に先生を埋めて、その上にこのタイムカプセルを置いて埋めるんだよ」
「おいおい、タイムカプセルを掘り返した時、先生の遺体も見つかるだろ?」
「だから、先生の上に埋めるって言ってるだろ。タイムカプセルを掘り起こしたら、それ以上は掘り返さないだろ。それに、ここにタイムカプセルが埋まってますと立て看板を立てておけば、当分誰も掘り返さないだろ」
「ああ、なるほど。それで、お前、急にクラスでタイムカプセルを作ろうって言いだしたのか」
「そういうことさ。さ、まずは先生を埋めて」
「あ、ああ、しかし、先生が、いじめがなかったことにしてくれなかったら、俺たち、どうなってたかな」
「せっかく推薦で決まっていた進学も、将来も、いじめ加害者として、ネットに名前をさらされて、一生日陰者だったろ」
「でも、俺たちにとっては恩人の先生を殺してよかったのかよ」
「しょうがないだろ、先生が、罪の意識で教育委員会にすべてぶちまけるとか言い出さなければ、俺だって、こんなことはしなかったさ」
いじめ自殺したあいつの母親が、子供の自殺の真相を知りたがり、俺らの担任を問い詰めたらしく、それで、先生も罪悪感で押しつぶされそうになった。先生としては、自分のキャリヤと卒業する教え子たちの経歴を傷つけるより、いじめの事実の隠ぺいを選んだのだが、それを最期まで貫けなさそうなので、俺たちは口封じのために先生を殺したのだ。

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