第42話 お待たせしましたっっ!!
貴族街の中心に向かいながら光属性の魔力を放出していく。
大気中に漂う瘴気が浄化され、薄暗かった場所に太陽の光が届くようになる。
誰も邪魔しない。範囲は広がっていき空気は浄化された。死んでさえなければ汚染の速度は緩やかになって延命できたはず。
目的の小型の汚染獣はすぐに見つかった。
四階建ての屋敷の上にいる。頭は鷲、体は羊、コウモリの羽があり、定期的に目が怪しく光っている。その度に体内が何かに犯される感覚はあるが、光属性の魔力が浄化してくれるので特に影響は出ていなかった。
これは汚染よりも呪いに近い部類だろう。
俺じゃなくてもトエーリエなら対抗魔法が使えるのでたいした脅威ではない。今のところは通常の小型だ。
村で戦った触手の汚染獣のように倒した後に何も起こらなければ、これ以上被害を広げずに倒せる。
「ポルン様! お待たせしましたっっ!!」
空から声がした。顔を上げるとテレサとベラトリックス、ヴァリィ、トエーリエがいる。
やばい! 暴走するぞ!
崖から【フライ】の魔法で飛んだ恐怖を思い出しつつも、彼女たちがどうすれば無事に着地できるのか悩む。が、そんな心配は必要なかったみたいだ。
ゆっくりと俺の近くに着地した。
飛翔系の魔法はベラトリックスが使っていたようだ。良い判断である。
「私たちはアレを倒せばよろしいのでしょうか?」
弓を手に取りながらテレサは興奮していた。
俺の近くで良いところを見せようとしているのだろう。もしくは、また共闘できることに喜びを感じているのか?
もしかしたら両方かもしれんな。
「瘴気は俺が浄化しているから、テレサとベラトリックスは遠慮無くぶち込め」
「はい!」
鼻息荒くテレサが弓を構えて光の矢を数本まとめて放った。
弧を描くようにして汚染獣に向かう。当たると思った直前で透明の膜に当たって消滅してしまった。
結界の魔法だ。
防御に自信があるからあんな目立つところでずっと止まっていたのだろう。
だとしたら完全に人類を舐めている。
「ベラトリックス」
「任せて下さい。飽和攻撃を仕掛けます」
俺たちの周囲に数十の光の球が浮かび上がった。その数はさらに増えていきすぐに百を超える。
圧倒的な魔力量を武器に攻撃を仕掛けるつもりだ。
手を前に出すとベラトリックスが生み出した光の球が次々と放たれる。汚染獣は半透明の結界を生み出して防いでいるが、いってみればそれだけだ。
逃げ出すことも、攻撃の邪魔をすることもできてない。
まあ、後は時間の問題だな。
「そういえばメルベルはどうしたんだ?」
余裕ができたので攻撃を眺めながらヴァリィに聞いてみた。
あの女がくるなら浄化に使っている力を少し弱めることができるんだが。
「馬車で移動すると言ってたので置いてきました」
「そっか。役に立たんな」
話している間にも攻撃を防いでいた結界にヒビが入った。もうすぐ壊れる。
「テレサは弓の攻撃を再開しろ! ヴァリィは……」
「破壊された瞬間を狙って、汚染獣の頭をはねる、でしょ。行ってくる」
白歯を見せながら笑い、ウィンクすると駆け出した。
なんかすごくカッコイイ。
今度あれをマネしてみよう。
絶対にモテる……じゃなかった! 誰が何をすれば良いのか分かっているので動きやすく助かる。
「ーーーーー!!」
結界が壊れそうになって焦った汚染獣が、コウモリの羽を動かして浮上した。
「落としますッ!」
光の球を放ちながら、ベラトリックスは上空に氷の塊を出現させると、汚染獣の背中にぶつけて屋根に叩きつける。
結界ごと屋敷まで完全に破壊するほどの威力だ。
あまりの破壊力によって建物の破片がこちらまで飛んできたが、トエーリエが結界を張って守ってくれた。
修繕費がすごいことになりそうだが、金を持ってそうな貴族だからきっと許してくれるだろう。
瓦礫を押しのけて汚染獣が起き上がろうとする。
「たぁぁあああ!!」
刀身に魔力をまとわせ十メートル近くまで伸びた剣を振り上げながら、ヴァリィが屋根から飛び降りた。
口を開いてブレスを出そうとするが、地面から石でできた杭が伸びて強制的に閉じられてしまう。汚染獣の口内が爆発した。
「うぁ。痛そう」
率直な感想を言っているとこ悪いが、テレサも攻撃に参加してもらわなければ困る。
「矢で羽を貫いてくれ」
「あ、はいっ!」
光の矢を放ってコウモリの羽を射ると穴だらけになる。
これで空は飛べないだろう。走って逃げるにしても体勢が悪すぎる。残る反撃手段は魔法ぐらいしかないのだが、発動させる時間なんて与えない。
その前にヴァリィの攻撃が届く。
魔力によって拡大した剣が振り下ろされると、汚染獣の首を落とし、勢いは衰えず地面までも深く斬った。
「これで終わりだ」
光属性をたっぷりと付与した槍を投擲すると、落ちた頭を貫き、胴体に突き刺さる。内部から浄化させていくと汚染獣は黒い灰になった。
新しい敵が生まれる可能性は残っているので、俺たちは距離を取りながら警戒を続けるが、何も起こらない。
「勝ったんですか……?」
あっさりと倒せたのでテレサは疑問に思っているようだった。