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012:遺産

 お爺さんの遺産を漁らせてもらう。現在シエラはベッドの上でオネンネタイムだ。なのでケダマが案内してくれている。

「爺さんな。シエラを養うために色んな物を売ったんだ」
「そう……」
「でも、魔法のカバンとか魔法のポシェットとかはあるはずだ。結構いい物だって言ってたぞ」

 魔法のカバンは有り難い。魔法のポシェットもだ。どちらも普通のカバンやポシェットより色々な物が大量に入れられる。

「本がいっぱいあるね」
「売るのか?」
「薬草図鑑や昆虫図鑑かぁ」

 私は使わないが……

「シエラの将来に必要かもだから取っておこう」
「そうか」

 他には両手用の杖があるな。ローブもある。

「これは?」
「あぁ爺さんが最後まで手放さなかった品だ」
「遺品かぁ。これでシエラ用の装備を作れないかな?」
「それは……いいのか? お前の取り分がないぞ?」
「私の取り分は、そこにあるよ」

 そう言ってベッドの上で眠っているシエラを指す。するとケダマが目を優しく細めて「そうか」と呟いた。

「さてと。明日から仕事、頑張んなきゃ」
「俺も手伝うよ」
「シエラの護衛をお願いね」
「あぁ。その点に関しては任せておけ」

 こうして私は家を出たのだった。

 そのままの足で冒険者ギルドに寄ったら、役所に顔を出すように言われていると言伝を貰った。

「なんだろう?」

 不思議に思いながらも役所に顔を出すと、奥へと通された。

「リシャ姉たん……」

 シエラが私の左手を握り不安そうにしている。

「大丈夫だよ」

 そう言って彼女の頭を撫でる。奥に通された先には領都を運営する代官の部屋。

 そこには見知った顔があった。

「バーレンツ……」
「エレスティナお嬢様」

 この領都を受け持っているのは伯爵である父だが、補佐をしているのが彼だ。彼が私に礼を取った。私は肩を竦めて言う。

「今はリサよ」
「そうでしたね」

 ケダマが不思議そうにしている。ただの小娘に敬語を使い、礼を取る偉い人を見たら何事だろうと思うだろう。

「ダリオレット様から言伝が」
「父から?」
「はい。死者の御冥福をお祈りします。とのことです。私からも。この度はご愁傷さまでした」

 隣にいるエルフの幼女は何のことか分かっていないようだ。

「それだけの為に呼んだの?」
「いえ。こちらを」

 そう言って渡されたのは一枚の紙だ。

「土地の権利書……」
「はい。あの森はポルオレル様の物です。亡くなったので血縁であるシエラ様に相続という形になります」
「へぇ」

 私はシエラを見る。退屈そうだ。でも大事な話なのは分かっているようで大人しくしている。そんなシエラに「土地だって」と言ってみたが何のことだと不思議そうだ。

「そこで提案があるのですが?」
「なんですか?」
「あの土地を売っていただけませんか?」
「私が決めるの?」
「現在の保護者はエレスティナ様ですから」
「リサだってば」
「そうでしたね」

 シエラに聞いてみる。

「あの家と森。どうしたい?」

 シエラが「わかんない」と言って、困ったように私を見る。そんな目で見られても私も困ってしまう。すると見兼ねたバーレンツが言った。

「森と家はそのまま残します。手入れもさせていただきます。また何年後かに買い取っていただければと思っています」

 それって……

「いいの?」
「えぇ」

 私への遠回しな援助だ。お父様……

「正直すごく助かる」

 私一人だったら受け取らなかっただろう。でも今はシエラがいる。私の意地に巻き込むわけには行かない。バーレンツがニコニコと笑っている。彼らに利はまったくないことなのに……

 だから素直にお礼を述べさせてもらう。

「ありがとう」
「いえ」

 その後、紅茶とお菓子をもらって退出した。

「美味しかったね」
「うん!」

 ケダマが「領主の娘だったのか」と呟くので「家出中だけどね」と返す。

「心配しているみたいだが?」
「跡取りは弟がいるし、私は自分の力で伸し上がってやるのよ!」
「そうか……」
「だから実家の力は当てにしないでね。今回だけだから」
「分かった」

 こうして私は役所を出て寝泊まりする宿屋へと帰ったのだった。

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