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003:家出じゃー

「とぅ!」

 城の塀を身軽に超える十五歳の私。

「ふはははは。この程度の障害なんて無に等しい!」

 いや。城の塀が私への障害ではなく外敵からの防壁なのは知っているけども!

 それでも、まるで私を閉じ込めておく檻のようじゃん?

 だから飛び越えてみました。ちなみに塀は三メートルほどしかない。やる気があるのかと問いたいぐらいの高さだ。

「さぁて、と。これで私は自由!」

 と思ったが、バレたら城から追手がやってくるかもしれないので、早々に領都から逃げなくてはいけない。だが、その前に冒険者カードが必要だ。

 城のメイドたちに聞いたのだが、これは自由民のパスポートみたいなもので、大きな街には入税料が要る場合があるのだそうだ。それに色々と面倒な税金の処理もしてくれるという。その上、身分証にもなるのだそうだ。これは必要だろう。たぶん……

 というわけで、さっそく冒険者ギルドへ向かうために歩き出したのだが、通行人が私をビックリした目で見てる。

「何故に?」

 私は自分自身を改めて確認してみた。そして気がつく。結構上等なドレス服を着ているのだ。あぁ、私。お嬢様だったんだね。久しぶりに気がついたよ。

「これは男性の庶民服に着替えるべきか?」

 というわけで、冒険者ギルドへ向かう前に服屋へ向かった。

 現在の季節は積雪の節から雪解けの節へと移ろい始めた頃。つまり春を迎えようかという頃なので、少し早いが夏用の服がいるだろう。

 通行人に服屋が何処にあるのかを尋ねてみたら、近くにあるというので行ってみた。

 そこはけっこう大きくて、たぶんだが貴族がお忍びでやってくるような店なのだろう。入ってから店員に声を掛けた。

「すみませぇん」
「はぁい」
「このドレスを買い取ってほしいんですけどいいですか? そんで私に合う男物の服を見繕って欲しいんですがぁ」
「はい。構いませんよ」

 すると店員さんは少年用の服を用意してくれた。女性にしてはそこそこ大きな身長の私だが成人男性と比べれば低いからだ。少年用の服でちょうどいいくらいだという。さっそく着てみたらゴワゴワしている。でもまぁこれが標準なのだから慣れなくてはいけないだろう。ちなみにサイズはピッタリ。さすがプロと言ったところか。

 ドレスを売り、服を着替え、そして、わずかばかりのお金を得た。無一文から小銭持ちに変わった。

 ちなみに家から金目の物は何も持ち出していない。そんな事をすれば泥棒だからだ。自分の家だけどな。でもあれらは当主である父と次世代の弟の財産で、私の物ではないと言う思いがあったからだ。

 それに無一文で家出するから意味があるのだしな。

 私は実家の力を借りずに一人で生きていくことの決意表明として、着の身着のままで家出をすることにしたのだ。それにその方が面白そうだし!

 といった感じの理由で無一文で飛び出したわけだ。つまりここから私のレジェンドが始まるのだ。衆人共よ。刮目せよ!

 というわけで服は着替えたので、まずは冒険者登録だ。

 私は冒険者ギルドへと足を向ける。領都の冒険者ギルドは前世でいえば役場のような雰囲気だった。右手には掲示板。多分ここに依頼票が張り出されているのだろう。左手側には受付。奥には階段だったり待合室のようなテーブルが並んでいる。

 私はさっそく受付の女性に話しかけた。そして絶望した。

「トウロクリョウ?」

 受付嬢が笑顔で答える。

「はい。登録料が必要です。大銅貨三枚ですね」

 私はポケットから小銭を取り出す。少し大きめの銅貨が一枚と小さめの銅貨が三枚あるだけだ。私はそれを受付嬢に見せる。

「足りてない……ですよねぇ?」

 受付嬢がニッコリ笑う。

「そうですね。足りてらっしゃらないようですね」

 あうう。どうしよう。

 私は受付嬢に問う。

「足りない場合はどうしたらいいでしょう?」
「稼いでください」
「仕事……」
「冒険者ギルドで仕事を受けるには登録が必要です」

 無慈悲!

「どうしようもないじゃない!」

 すると受付嬢が、わざとらしく今、思い出したと言わんばかりに棒読み口調で独り言を喋り始めた。

「そう言えば近場の酒場で調理補助と給仕の仕事を募集してたなぁ。身分は問わないとも言ってたなぁ」

 おっ、マジで!

「それだ! ありがとうございます。さっそく行ってみます!」

 私は踵を返して、その場を去る。すると後ろの方で受付嬢から「頑張ってくださいねぇ」と応援をされたのだった。

 そこは木造の二階建ての、ありふれた宿だった。

 私は、さっそく雇ってもらう。身分証もない。紹介者も居ない。成人したての小娘を雇う酒場兼任の宿屋。どんなブラックな職場かとヒヤヒヤしたが意外に真っ当だった。

「給料は三食の賄いと宿付きで日当、小銅貨一枚。売りをするなら場所代を払いな!」
「売りはしません!」

 自分の安売りはしない。さすがにそれは最後の手段にしたい。

 というわけで私は食堂で調理補助と給仕の仕事を頑張ることとなったのだった。

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