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第47話 大赤見

 若い男の人が、眠っている人たちを美味しく食べているのだ。
 小柄で、赤髪で一昔前のヤンキーのようなリーゼントの少年。





 
※ここから三人称

「うまい、うまい、うまい。人間って、本当にうまいでぇ」

 むしゃむしゃと、大赤見はまるでそれが美味しい食べ物であるかのように人間の血肉を口に入れて美味しそうに食べている。

 隊員の人達、昏睡している道端で見つけた一般人。みんな美味しい味だ。

 恍惚さすら感じるくらい、嬉しそうな表情。
 まずは肉の部分をかみちぎって、まるでそれがステーキであるかのように味わって胃の中に入れていく。

 それから、骨の部分をパキッと折ってから、中にある髄の部分をぺろぺろと舐めるように口に入れていく。
 そして、最後にぼりぼりと骨をかみ砕いていった。

「人間──美味いわ、美味いわ、美味しいっ! 最高や~~」

 食べているのは、主に妖力の好きないランクの低い隊員や、子供の血肉。
 妖力がある隊員は半妖である大赤見が触れた瞬間気配で気づかれ、抵抗されることがあるからだ。

 そうすれば、こうして美味しい食事をとることが出来ない。
 大赤見は人間を次々と食べていく中で、一人一人味が違うということを熟知していた。

 今までも、こうして何百人という人間を食らってきたからだ。

「この子は柔らかくて、脂がのっとる。この隊員は、さすがだわ。筋肉で身が引き締まっとるわ」

 そして、数人ほどの食事をとってから、隣にいた獏を抱きかかえて、相対した。

「獏、お前はすごいのう。妖怪省の隊員だろうと、みんな眠らせて食料にしてくれる」

 きゅぅぅぅぅぅぅ~~~~ん。

 獏は、かわいい鳴き声を発して鳴いている。大赤見は、他の半妖から人間を食らうことで自分の妖怪としての力がますます強大となることを学んでいた。

 しかし、生きたまま食らおうとすれば当然人間からは抵抗される。そして、何度も妖怪省の隊員たちに殺されそうになった。

 なので、いつも夜森などに隠れていては人の背後から襲い掛かっていたのだ。
 しかし、獏のおかげで状況は変わった。この辺りの人間たちは、今快楽ともいえる自分たちが望む夢の中にいる。

 それなら、普通の人間や雑魚の隊員程度なら何の問題もない。

 人間だったころに、豚肉や牛肉を食べるような感覚で人間たちを腹いっぱい、たらふく食べることが出来るのだ。

「それもこれも、獏。お前のおかげや。流石は、異界の生き物や。こんな強い妖力を持った魔物は、初めて見たで」

 そう言って、大赤見は唇に付着した血や肉を手でふき取った後、獏の頭のあたりを優しくなでる。

 彼のおかげで、食べられる人間の数が格段に上がった。以前は、何日も人間を食べることが出来なくて、しかし人間の味を知ってからは他の物を食べられなくなってもがき苦しむことも何度もあった。

 それが、将門から獏を与えられて以降状況が変わった。

 毎日のように、それも自分がおいしいと直感的に感じた人間を何人も食べることが出来る。
 飢えることもない、本人にとってはまるで天国のような日々。

 獏も、将門様もこれからは大切に慕って行こう。そんな風に心の底から誓ったその時──。

 きゅぅぅぅぅぅぅ~~~~ん

「なんや?」

 大赤見は何かに気付いて後ろを振り返る。獏も、何かに気が付いたのか足で頭をごしごししてから周囲をきょろきょろしだした。

「何者か……こっちにくるで」

 獏を地面において、背後を振り向いた。
 さっきまでの、陽気そうな表情から一転真剣モードになる。

 戦いを覚悟した、これは──強い妖力の力。

 それも、今まで戦ってきた妖怪省のやつらとは違う。

「気配がするで。それも、ただの人間じゃあらへん。ワイと同じ、半妖や。楽しみやで──」

 将門に近い──すぐに半妖だと理解。
 こっちに向かって来る。戦いになるのだろう。


(ああ楽しみだ。半妖同士の戦い)

 大赤見はにやりと笑って、舌をなめずりした。

(絶対勝って、そして食ってやるわ。半妖の血肉はどんな味がするんやろな……。今から、楽しみや)


 ヤンキーっぽい男。間違いない、あいつから発せられる妖力からわかる。

 あいつだったのか──。
 私の気配に気が付いたのか、あと数メートルまで近づいたところで、こっちに振り向いてきた。

「へぇ~~あの夢から覚めたんか。大したもんやわ」

「お前だったのか、私たちをたぶらかしていたのは。おまけにお前、どれだけの人を食った!!」

「まあまあ、怒らない怒らない。妖怪が人を食うのは当たり前なんだやら、気にしすぎ」

 妖怪なんだから当たり前──こいつ、私や御影さんと一緒の半妖。
 彼から湧いてくる妖力から、わかった。

 つまり、私と同じで単純に切っただけじゃダメなんだ。初めての、半妖同士の戦い。厳しいかもしれないけれど、負けるわけにはいかない。

「獏との取り決めで、あの青髪の女の子は食っとらん。怒ることないやろ」

「そういう問題じゃない」

 ミトラのことを知ってる? それには何か理由でもあるのだろうか。誰かから、ミトラだけは手を出さないよう言われたのだろうか。

 ……そういう問題じゃない。こいつは──あの死体の山の通り人を食った。
 数えきれないくらいの人を。

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