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早坂さんは重い溜め息を吐いた。
「あなたを見つけた時、心臓が止まるかと思ったわ」
「あの、鬼火は・・・やっつけたんですか?」
「ええ、瀬野が本体を潰したわ。それも、あんなふうに飛び込むなんて・・・下手したら死んでかもしれないのよ?」
「・・・この服、役に立ちましたね」
早坂さんはわたしを睨み、呆れたようにまた息を吐いた。早坂さんが心配してくれてるのはわかるけど、わたしは説教より褒めてほしいんだけどな。
「中条、よくやった」
そう、こんなふうに。瀬野さんはすでに刀を鞘に納めている。
「ありがとうございます。瀬野さん大丈夫ですか?」
「軽い火傷程度だ」
料理でもしてたんだろうか、この人達は。
「先に言ってくれちゃってこのアホ」ボソりと呟いたのは、早坂さんだ。わたしの脇を掴み、立たせる。
「今、何か言いました?」
早坂さんはいつものようにわたしの頭に手を置いた。怖い顔が優しい顔に戻っている。
「よくやったわ。大したもんよ、あなたは」
思いがけない言葉に、嬉しさが込み上げる。身体の痛みなど忘れて舞い上がりそうになった。
「俺がさっき言っただろう」
「ええ!先を越されたわ!ったく、普段無口なくせに余計な事は言うんだから」
「どう考えても褒めるところだろ。お前が言わないから俺が言ってやったんだ」
「言うつもりだったのよ!」
「だったら早く言え。なあ、中条」
「はい、わたし褒められて伸びるタイプなので」
早坂さんは、黙った。そして、「フン」とそっぽを向いた。イジケている。
「・・・ほんとに、2人が無事で良かったです」
今になって、実感した。この2人に何かあったら、わたしはどうなるんだろう。考えるだけで身体が震える。いつの間にか、わたしにとってそれだけ大きな存在になっているんだ。
「よし、こんな場所、さっさとおさらばしましょうか。虫もたくさんいるしね」
「ギャッ・・・賛成です」