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「今帰ったお客さんです。春香さんが不倫だって言うんすよ」
「んー、そうかなあ。付き合ってるのは間違いないけどね」
「なんで!?」即、春香が食いついた。
「テーブルの上で何度か手握り合ってたから。俺厨房から全体見渡せるからさ」
「手ェ握るってことは、間違いないすね。不倫かはわかんないすけど」
「店の中では手を繋ぐのに、外では繋がない・。人目を気にしてるって事よね。つまり・・・」
「不倫すか?」
「絶対そうよ。というか、そうであってほしい」
「なんで?春香ちゃん、不倫願望でもあるの?」店長はいつもの椅子に座り、タバコに火をつけた。煙がわたしのほうに向かってきて、メニューで扇ぎ返す。
「まあ、禁断の恋ってのに、ちょっと憧れはあるかも・・・」
「例えば?」今度は一真くんが食いつく。
「んー、不倫は当たり前だし・・・教師と生徒とか?」
「それで言うと、春香さんは年齢的に教師側になりますよね」
「そうね。年下はダメよ。他にあるかしら・・・ああ、人間以外との恋とか」
「・・・人間以外?」
「一真くん、本気で聞いたらダメだよ。それより、不倫は当たり前に突っ込まないの?」
「そうよ、ヴァンパイアとの禁断の恋!」
「アホくさ。映画の見すぎだ」
「そういえば、そんな映画流行りましたよね」
「じゃあさ、じゃあさ、経営者と従業員の恋は?」店長の嬉しそうな顔の意味は、わか
る。
春香は、うーんと考えた。「まあ、それもいいですね。大きな会社の社長で、メチャクチャいい男なら」
店長は現実から目を背けるように、窓の外を見た。「凌ちゃんとこ行って、慰めてもらおうかなあ・・・」
「あ、俺も行く予定でした。なんか、新作の餃子開発したみたいで、試食しに来いって指令が」
「あ、そうなの。じゃあ、みんなで行っちゃいますか〜?」
「賛成!」すぐに手を挙げたのは、春香だ。
「雪音さんも行くっすよね?」
「あ・・・」すぐに返事が出来なかったのは、昼間の一件があるからだ。早坂さんに連絡しなければ。
「えー・・・また断られるんすか。ガチでへこみそう俺」