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「ちょっと、褒めなくていいのよ。そして叩かないでちょうだい」
「なんでだ?中条のおかげで始末出来たんだろ。褒める以外、何がある」
なんだか、瀬野さんが神様に見えてきた。
「あたしが言いたいのは、無茶をしすぎってことよ。結果オーライで済む話ではないわ」
「それはお前の問題だ、遊里」
早坂さんは、顔をしかめて黙った
「・・・あんな風に消えるんですね。初めて見ました」
「ああ、図体がデカいから、毒が回るのも時間がかかったがな」
「毒?」
「そのナイフだ。まあ、特殊な素材でな。妖怪にとっては毒みたいなもんだ」
「そうなんですか・・・」手の中のパートナーをぎゅっと握りしめた。こんなに小さいのに、頑張ってくれてありがとう。
「しかし、まさか大ムカデだったとはな。この公園で被害の報告はないが、早めに対処出来て良かったな」
「・・・蛇じゃなくて残念でしたね」
「まあ、そんなに簡単に見つけられたら苦労はしないわよ。今回はアイツを仕留めれただけ良しとしましょう」
「・・・同じ事じゃないか?」
「なにが?」
「同じ事を言ってるだろう。俺は、早めに対処出来て良かったってって言ったよな」
「だからなによ」
「いや、あえて同じ事を言う意味があるのかってことだ」
早坂さんは呆れたように宙を仰いだ。「はいはい、どうでもいいわそんなこと」
「俺の話を聞いてないという事だろう」
「あーうるさいうるさい、アンタより喋れないムカデのほうがよっぽどマシよ」
2人が漫才を繰り広げている間に、わたしはヘッドライトを拾い、頭に装着した。良かった、壊れていない。
「雪音ちゃん、帰るわよ」早坂さんがわたしの手を取り、そのまま歩き出した。
「おい、話は終わってないだろう」
「だー!うるさいわね!アンタ、年々偏屈になってるわよ!?」
早坂さんのグローブみたいな手が、わたしの手をすっぽりと覆う。
「あの、早坂さん。わたし、自分で歩けます・・・」
早坂さんは振り返り、握る手に力を込めた。「ダメよ。何処に飛んで行くかわからないんだから。抱っことどっちがいい?」
「このままでお願いします」
その後も続く2人の漫才は、自分の心臓の音で、上手く聞き取れなかった。