第96話 『特殊な部隊』の『特殊部隊』的性格
「僕は……全然、西園寺さんのことをわかってなかったんですね……」
立ち上がりながら誠はかなめに笑いかけた。
「アタシを何だと思ってたんだ?ただのガサツな姉ちゃんか?うちは『特殊部隊』だぞ。
その隊員ならこれくらいのことは出来て当たり前だ」
挑発的な笑みを浮かべてかなめはそのたれ目を誠に向けた。
「いえ、そんな……実はただのガンマニアだと思ってました」
正直、誠はこれまでそう思っていた。銃は人を殺すモノ。その銃のスペシャリストが殺しのスペシャリストであっても別に不思議はない。
「アタシが教えなかったからな。こんなのは遊園地のお散歩みたいなもんだ」
かなめのたれ目に光は無かった。それが誠には恐ろしく感じられた。
「まあ、アタシと叔父貴はこんな日常を生きて来たんだ。アタシはあの『駄目人間』を叔父貴と呼んでる。恥ずかしい話だが、アレはアタシの『叔父』だから……親父の義理の弟なんだ」
かなめは安心したように胸のポケットからタバコを取り出して一本くわえた。
「オジキ?
次から次へと訪れるかなめの隠された過去に誠は驚き続ける。そして、耳には近づく銃撃戦の銃声が響いてくる。
「残念ながらそれは本当。アタシが生まれる前からあの『駄目人間』が家にいたんだと。アタシが外から帰ると、たいがいあの『駄目人間』がちゃぶ台で冷や飯にお茶をかけてを食ってた。親父の戸籍上の弟だから『叔父貴』。血縁的には『お袋』の血族らしいから……親戚なんだよ、あの『脳ピンク』とはな……同じように殺しの世界に足を突っ込んで抜けられなくなった……血の因縁かね」
かなめは胸のポケットからタバコにジッポで火をつける。そして誠を見上げて、少し恥ずかしそうに笑った。
誠は状況が把握できないで銃を握って震えていた。
「行くぞ、神前。アタシが『鉄火場の後始末』の方法を教育してやる!」
そう言うとかなめは銃をもう一度、確実に握りなおした。
『やっぱりこの人は楽しんでる……』
相変わらず残忍な笑いを浮かべているかなめを見て誠はそう確信した。
誠はかなめに視線をやりながらも、下での話し声に耳をすませていた。先ほどからもめている若いチンピラの声に混じって下から駆けつけたらしい低い男の声が聞こえる。
「どうするんですか?西園寺さん。三人はいますよ」
誠は銃を拾い上げながら、通路越しにかなめに話しかけた。
かなめは一瞬下を向いた後、誠に向き直った。
「お前、
そう言うとかなめは飛び切り嬉しそうな顔をする。まるで何事も無いようにその言葉は誠の耳に響いた。
「そんなあ……」
誠はかなめに渡されたチンピラの銃を手に握って泣きそうな顔でかなめを見つめる。
「あんなチンピラにとっ捕まるようじゃあ、先が知れてらあ。これがアタシ等の日常だ。嫌ならさっさとおっ死んだ方が楽だぜ?」
かなめは階下を覗き見てそう言い放った。下のチンピラ達はとりあえず弾を込め直したようですぐにサブマシンガンの掃射が降り注いでくる。
「どうしてもですか?」
誠の浮かない表情を見てかなめは正面から誠を見つめた。
「根性見せろよ!男の子だろ?」
かなめはそう言うと左手で誠にハンドサインを送る。突入指示だった。
「うわーっ」
そう叫んで誠はそのまま踊り場に飛び出すと、拳銃を乱射しながら階段を駆け下りた。
「馬鹿野郎!それじゃあ自殺だ!」
かなめは慌ててそう叫ぶと、すぐさま後に続いて立ち上がり、次々と棒立ちの三人の男の額を撃ち抜いた。
「うわあ、ううぇぃ……」
三人の死体の間に誠はそのまま力なく崩れ落ちる。
「冗談もわからねえとは……所詮、正規教育の兵隊さんだってことか?ったく。それにしても……下手な射撃だなあ」
誠の撃った弾丸が全て天井に当たっているのを確認すると、かなめは静かにタバコの吸い殻を廊下に投げた。