第90話 お使いに出向くことに
「分かりました!アイスを買ってくればいいんですね!隣の工場に確か生協が有ったはずですから。そこまで行ってきます!」
仕方なく誠はそう言って立ち上がる。
「よく分かってるじゃねえか、一週間も経ってないのに……昼飯の注文は忘れるなよ」
嫌味を言ってくるかなめにムキになりながら、誠は手にはタブレットを持つ。そして菱川重工豊川工場近くの『役員向けどんぶりもの専門店』のサイトを立ち上げた。
かなめとカウラの注文がすでに登録されていた。その『値段の桁が誠の行くチェーン店より一桁多い』そこのどんぶりを選択して注文をした。
『給料が良いんだな……上級士官ともなると』
まだ士官候補生の誠は苦笑いを浮かべながら画面を眺めた。
特にランの『特級松』の値段を見て誠は『偉い人』とは自分の生きている世界が違うことを理解した。
「あそこの生協は……あんまりいーのがねーんだよな。じゃあアタシはモナカ。小豆じゃなくてチョコだぞ」
『偉大なる中佐殿』こと、クバルカ・ラン中佐は顔を上げて、そう言った。
「西園寺さんは何にしますか?」
誠は半分やけになって、態度のでかいかなめにきつい調子でそうたずねた。しばらくの沈黙の後、眼を伏せるようにしてかなめはつぶやいた。
「イチゴ味の奴。それなら何でもいい」
かなめは天井を見上げて、めんどくさそうにそう言った。誠に歩み寄ってきたカウラは、彼女の財布から五千東和円を取り出して誠に渡した。
「じゃあ私はメロン味のにしてくれ。あそこは工場の職員以外は現金払いだからな。金はこれで間に合うはずだ」
誠はカウラから札を受取ると静かにうつむいた。
「はい!それじゃあ行ってきます!」
苦笑いを浮かべるカウラに見送られて、誠はそのまま詰め所を後にした。