第75話 意外な訪問者
「いっぱい買っちゃった」
それから数時間して誠は初日に行った月島屋のある商店街で見つけた小さな模型店で買った袋を下げて寮の自分の部屋の扉を開けた。
「あれ?空調は止めたつもりだけど……」
ひんやりとした空気に違和感を感じながら部屋の戸を開けると、誠はそこに人影を見つけた。
「よう!」
おかっぱ頭に黒のタンクトップ。そして左脇には愛銃『スプリングフィールドXDM40』。それは西園寺かなめ中尉だった。
「なんだ、西園寺さんが来てたんですか……」
誠は安どのため息をつきながら手提げ袋を部屋の片隅に置いた。
「なんだ、男子下士官なんて消耗品の兵隊に割り当てられた割にいい部屋じゃねえか。島田が寮長をやってるって聞いてたからもっと壁に落書きでもしてあるような部屋を想像してたのに」
「なんでそんなゲットーみたいなイメージなんですか?島田先輩は何者なんですか?」
さすがの誠もかなめの島田に対する偏見には異論を覚えた。
「そりゃあヤンキー」
ベッドに腰かけて真顔でそう答えるかなめを見ながら誠は呆れたように立ち尽くす。そんな誠はかなめの隣に置かれた意外なものに目をやった。
「あのー……それ、ギターですか?」
誠はかなめの足元にあるギターケースを見てそう言った。
「なんだよ。アタシが銃以外を持ってるのが不服か?」
「そんなことは無いですけど……」
かなめは誠に絡みながらギターケースを開けた。年季の入ったアコースティックギターがかなめの手の中に納まる。
「なんだかギターって……西園寺さんにぴったりですね」
「褒めてもなんもでねえぞ」
そう言ってかなめは笑いながらギターを軽く撫でる。いつものガサツなかなめとは違い、その手つきには優美さを感じさせた。
「好きなんですか?ギター」
誠は腕慣らしにギターをつま弾くかなめを見ながらそう言った。
「嫌いで弾く馬鹿はいねえだろ?それよりいつまで立ってるつもりだよ。そこに座れよ」
ベッドに腰かけたかなめは部屋の中央で立ち続けている誠にそう言った。仕方なく、誠はその場に腰かけた。
「西園寺さん」
「アタシは自由人なの。ギターを弾きたいときに弾いて歌いたいときに歌う。それだけ」
そう言うとかなめはギターをかき鳴らし始めた。