1-13:連絡
私の五歳の誕生日会から早十日が過ぎた。
私への襲撃があった事で現在イザンカ城の警備は以前にも増して厳重になっていた。
しかし王族である私たちにはそれほど影響が無く、いつも通りの生活をしていた。
「アルム君~、お茶しましょ~」
そろそろかなと思ったら、やっぱりアプリリア姉さんがやって来た。
午前中にいろいろ習い事をして、昼食後は自由な時間が多い。
大体私は食後に魔導書を読みふけっているのだけど、何時も一休みの頃にアプリリア姉さんがやって来て一緒にお茶をしようと言ってくる。
「アプリリアお姉ちゃん、私も私も~」
私の所でいつも一緒に本を読んでいるエナリアも手を上げて、ハイハイ言ってる。
いつも通りの日常が戻って来たかのようだった。
ばんっ!
「私もアルㇺと一緒にお茶するわよ!!」
元気に扉を開いてエシュリナーゼ姉さんもやって来た。
最近は毎日やって来る。
「エシュリナーゼ姉さん、お稽古事は終わったのですか?」
「もちろんよ! 私もお茶会に混ぜなさい!!」
相変わらずのエシュリナーゼ姉さんにアプリリア姉さんもあきらめのため息をついてお茶をする為にマリーに言う。
「それじゃ、マリー準備をお願い」
「はい、アプリリア様。ところで、エシュリナーゼ様は何故にアルム様を拘束なされているのですか?」
「いいじゃない! アルムに(魔力を)入れてもらってとっても気持ち良かったんだから、お茶の後またアルムと(魔力供給)するの! そして私たちの手で今度こそ(召喚魔法で)かわいい(使い魔の)子をね!!」
カッ!!
どんがらがっしゃぁ~ん!!
いきなりマリーとアプリリア姉さんの背景が真っ暗になって雷が落ち、二人の彩色が忘れられたかのように真っ白になる。
私はエシュリナーゼ姉さんに抱き着かれたまま言う。
「違うからね!」
「え~、何が違うの? アルムのならいつでも私に(魔力を)入れても良いのよ? 私は欲しいし♡ アルムに中でたっぷりと(魔力を)吐き出して欲しいなぁ♡」
だがしかし、このブレ無い姉はとんでもない事を口ずさむ。
「ななななななっ! アルム君!! 私と言う姉がいながらどう言う事ですか!?」
「アルム様!! そんな、まだお小さいのに!! イケません、ご姉弟で子供はイケません!! するなら私で!!」
アプリリア姉さんもマリーも何故か取り乱す。
いやちょっと待て、君たち。
私ってまだ五歳だよ?
下の毛も生えてないんだよ?
そんなのがどうやってそんな事出来るのじゃぁ―っ!!!!
「何よ、そんなに私とアルムで召喚獣を呼び出すのが問題なわけ?」
「「はいっ?」」
しかしエシュリナーゼ姉さんのその一言でみんな動きが止まる。
エシュリナーゼ姉さんはにこにこ顔でいう。
「前回は上手く行かなかったけど、今度は大丈夫。あの後アルム君に言われた魔法陣の改定したら魔力回路の通りが良くなったからね。今度こそは可愛い使い魔を召喚して使役して見せるわ!!」
ぐっとこぶしを握るエシュリナーゼ姉さん。
いい加減私を放して欲しい。
「しょ、召喚獣って使い魔ですか?」
「それではアルム様とは……」
「何かおかしい事でもあった?」
エシュリナーゼ姉さんにそう言われ、真っ赤になる二人だったのだ。
* * *
「ところでマリー、何か分かった事あるの?」
お茶を飲みながらエシュリナーゼ姉さんはマリーにそう聞く。
マリーはエナリアにクッキーのお皿を差し出しながら、エシュリナーザ姉さんに顔だけ向けて言う。
「残念ながらまだ」
「ふーん、アマディアスお兄様もウチの密偵を使って各方面に探りを入れているみたいだけど、やっぱり冷静に考えるとジマの国がうちのアルムに手を出す理由が見つからないのよね……」
そう言って、クッキーをつまみ口に運ぶ。
「あの後は全く手出しをしてこないとか。でも殺るなら、例えばアルムのこのクッキーに毒を入れるとか」
ぱきっ!
エシュリナーゼ姉さんはマリーを見ながらそう言う。
しかしマリーは落ち着いて言う。
「ご安心を。クッキーの毒見は既に私がしております」
それを聞いたエシュリナーゼ姉さんはつまらなさそうにもしゃもしゃとクッキーを食べて飲み込み、お茶で流す。
「さて、アルムこの後付き合いなさいよ。今度こそ召喚獣を呼ぶから!」
「エシュリナーゼ姉さん! この後アルム君は私とイージム大陸の伝承についてお話をする予定です!!」
「私もお話聞きた~い」
しかしアプリリア姉さんやエナリアが声を上げる。
「うっさい! これは姉命令! 姉の命令は絶対なの、アルム行くわよ!!」
「うわっ、エシュリナーゼ姉さん!?」
「マリーもついて来て!」
そう言ってエシュリナーゼ姉さんは強引に私を引き連れて部屋を出て行くのだった。
* * *
「それで、本当の所はどうなの?」
「どうと言われましても……」
エシュリナーゼ姉さんはあの魔法陣が書かれた部屋に私とマリーを連れ込んでからそう聞いてくる。
一体何がだろうとエシュリナーゼ姉さんを見ていると、姉さんはマリーをじっと見つめている。
マリーはため息をついて、渋々口を開く。
「ジマの国に異変は有りません。ローグの民も黒龍様の指揮下にあります」
「ではなぜ?」
「これは推測ですが……ジーグの民の者ではないかと」
それを聞いてエシュリナーゼ姉さんは首をかしげる。
「ジーグの民? 何それ??」
「ジーグの民はローグの民同様、黒龍様の娘、初代ジマの国の始祖王だったお方に仕えていた者たちと聞いています。その能力はローグの民に引けぬとも言われております」
マリーはそう言って大きく息を吸う。
そしてエシュリナーゼ姉さんに顔を向けてから静かに言う。
「ジーグの民が何らかの形でどこかの者の密偵をしているのではないかと」
「どこかの者って、どこよそれ?」
「残念ながらそこまでは……」
「アマディアスお兄様にはこの件はもう話しているのでしょう? だからウチの密偵たちを動かしたと言う訳ね? それもお父様の許可を得て」
「……」
エシュリナーゼ姉さんにそう言われマリーは黙り込む。
つまりそれは姉さんの言葉を肯定すると言う事だ。
すると姉さんは私に向かってしゃがみ込み、目線を合わせて言ってくる。
「アルム、大丈夫よ。あなたは私たちが守る。だからあなたは今までお通りでいなさい。面倒な事は私たちが始末するからね」
そう言って私の頬にキスをしてくる。
ちゅっ♡
「エシュリナーゼ姉さん?」
「その何者かを見つけ出し、後悔する暇もなく消し去ってやる。さあ、アルㇺ。私の使い魔を召喚するわよ!!」
エシュリナーゼ姉さんはそう言ってまた魔法陣へと向き直るのだった。