1-11:イザンカ王国ってどんな国?
「えっと、そもそも自分の国もよくわからないってものなんなんだよね~」
「アルム君、どうしたのいきなり??」
*
あの後エイジたちは第二都市で自分たちの領地であるレッドゲイルに帰って行った。
エイジ自身はもっと私と遊んでいたかったらしいが、私の襲撃以降やはり色々とあり、一旦自分の領地に戻るとか。
うん、いとこと遊び足らない時ってこんな感じだよね?
別れ際に、今度会う時はお互いにまた魔術の見せっこをしようと約束した。
何故かその話にミリアリアさんも加わって来たのは意外だったけど。
「それではアルム君、また」
「アルム~、元気でな!!」
「アルム、次は私が手取り足取り魔術を教えてあげますわ!」
いとこたちはそう言って馬車に乗り出発して行った。
私たちは彼らが城門を出るまでずっと見送っているのだった。
*
で、冒頭のそれ。
部屋で魔術書を読んでいて、ふと自分のいる国とかについて気になってそう言うとアプリリア姉さんが反応した。
「いやね、よくよく考えたら魔術の事ばかりで自分の国の事も周辺国の事もよく知らなかったって思ってね。アプリリア姉さん、イザンカについて、周りの国について教えてよ」
「アルム君、もちろんよ! お姉さんとしていろいろ教えてあげます!!」
ニコニコ顔のアプリリア姉さん。
どうやら私から頼られたことが嬉しいらしい。
「私も私も~」
一緒に魔導書を読むふりしてたエナリアもそう言って手を上げている。
それを見て、アプリリア姉さんは更に気を良くして、本棚にある一冊御本を取り出してきた。
「それじゃぁ、この世界、特にイザンカ王国があるイージム大陸のお話ししましょうね」
そう言ってその本を開いて私たちに見せるのだった。
* * *
イージム大陸。
この世界には大きく分けて四つの大陸がある。
私たちのいる東のイージム大陸。
西の最大の大陸、ウェージム大陸。
南のサージム大陸。
そして北のノージム大陸。
これら大陸は神話の時代に古い女神様たちが「始祖なる巨人」から生まれ出て作ったそうな。
古い時代の女神様は父である「始祖なる巨人」と共に世界を構築してゆき、やがて「始祖なる巨人」の病死がきっかけで女神戦争が起こり、十二神いた女神たちは二人を残して全て肉体を失い。天空の星座になったとか。
うーん、もう神話。
これ以上無いって程の神話ね。
で、その女神戦争の時にとある女神様に仕えて他の女神たちを焼き殺したと言うのが「黒龍」他数体の竜だったとか。
有名なのは「黒龍」以外にも「赤竜」と言うのがいて、今は現女神様の僕として仕えているとか。
さてさて、そんな途方も無い大きな話の神話から女神戦争で残った「天秤の女神、アガシタ様」ってのがこの世界の主を人間にする為に女神様の奇跡の力の秘密、「魔法」を人々に伝えたのが有史歴の始まりと言われている。
で、その時に一番力があったのが魔法王と知られているガーベルと言う人。
この人はものすごく長寿で、何千歳も生きたそうな。
そして世界の主要都市を作り上げ、各国の建国をして来たそうな。
このイザンカ王国もその一つ。
しかも歴史は一番古く、最初に魔法を伝えられた国とも言われている。
だからうちの国は魔法に対して重きを置いている。
当然、王家の人間はみんな魔法使い。
そして五歳の時に鑑定を受け、資質があると英才教育を施す。
「だからうちの国は魔法に対して先進的なのよ!」
アプリリア姉さんはそう言って胸を張る。
確かに、お城から出た事は無いけど城中にはいたるところで魔法の道具や魔法による浄化作業などもやっていた。
夜になれば全ての明かりは魔法の明かりをメイドたちがつけ回っていたり、掃除も魔法でおこなっているのが多い。
【浄化魔法】とか言う少し難易度の高い魔法もメイドたちはみんな使える。
おかげでいつも城内はピカピカ。
床の大理石なんか顔が映るほどきれいになっている。
日常的にここまで魔法が使われている国はないそうだ。
そして我が国イザンカ王国は、各大陸の中で一番人間に環境的に優しく無いとされるイージム大陸の北方を領土とする国。
あ、イージム大陸が何で人間に優しく無いと言うかと言うと、女神戦争の時に暗黒の女神様が光の女神様と相打ちになってこの地で滅んだせいだとか。
おかげでこの地は作物の出来が悪く、黒い森も多くて魔獣も多い。
その昔はダークエルフとか言うアサシン集団みたいのもいたらしいけど、そいつらの村は今は無くなっていて、噂では北のノージム大陸に移り住んだとか。
で、これだけ環境的に厳しい場所なのでイージム大陸には大小さまざまな村や町にまで魔物よけの城壁があるそうな。
それも高さ十数メートルの巨大な城壁が。
……もしかしてハズレの国なんじゃ?
何その過酷な環境!?
「そんな過酷な環境のこのイージム大陸には全部で三つの国が有るの。北の私たちのイザンカ王国、東の極東ジマの国、そして南方一帯をまとめているドドス共和国ね」
アプリリア姉さんはそこまで言ってから本の次のページを開く。
するとそこにはこのイージム大陸の地図があった。
「あれ、アプリリア姉さんジマの国って何処?」
「ああ、実はジマの国はとても小さくて、領土もこの渓谷の向こう、東の港町がそれなのよ」
そう言って地図の真ん中、その東の端っこ辺を指さす。
すると小さく「ジマの国」って書いてあった。
と言うか、ジマの国ちっちゃっ!!
ほとんどイザンカ王国首都ブルーゲイルの周辺に点として書かれている村や町並みに小さい。
「アプリリア姉さん、これ本当に国なの?」
「うん、領土は小さいけどこの国は世界最強の騎士たちがいると言われているの。マリーが使っている『操魔剣』って言う特殊な身体能力を上げる魔法を使っているのよ」
「『操魔剣』?」
そう言えばマリーのあの動き、尋常じゃなかった。
二歩目であの十数メートルと言う飛躍的な踏み込み。
なぎなたを突き刺す時のあの技。
どう考えても普通じゃなかった。
「アプリリアお姉ちゃん、じゃあ私たちの国のみんなは弱いの?」
「うーん、弱くはないけど私たちの国にも『鋼鉄の鎧騎士』があるからね。でもジマの国には無いから『黒龍』が出てこなければうちの国の方が強いのよ」
アプリリア姉さんはエナリアにそう言って地図の一点を指さす。
「ここに世界最大の地下迷宮があって、その最下層に黒龍が住んでいるって言われているの。でも今はその黒龍さえも『破壊と創造の女神様』に仕えているから、何もしなければ襲ってくる事は無いのよ」
アプリリア姉さんが指さすその迷宮はジマの国のすぐ隣だった。
そしてその周辺だけは何処の国の領地でも無かった。
「なるほど、でもそのジマの国って僕たちの国と同盟を組んでいるんでしょ?」
「そうね、凄く昔ドドス共和国と戦争になりかけた時に私たちの国の英雄がジマの国と同盟を結んだの。双方不可侵の約束をして、他国が攻めて来たらそれを撃退する手助けをするってね……」
そう言うアプリリア姉さんは少し悲しそうな顔をする。
そして私に顔を向けて言う。
「アルム君に手出しをするだなんて、たとえ同盟国でも私は許さない。アルム君にもしもの事が有ったら私は……」
「大丈夫だよ、アプリリア姉さん。ほら、エシュリナーゼ姉さんに『身代わりの首飾り』も貰ったし、シューバッド兄さんにもらった魔力制御の杖もあるしね!!」
私は努めて明るくそう言う。
私が襲われた理由は分からない。
でも、せっかく転生して王宮のイケナイ事を目の当たりに出来るって言うのにそう簡単にくだばってたまるもんですか!!
まだその現場を見てないんだもん!!
「アルム君…… うん、そうだよね。アルム君は膨大な魔力を持つ魔法王ガーベルの再来だもんね」
「いや、そんな大それたものじゃ……」
自分のあのバカでかい魔力については何とも言えないけど、そんな伝説の様な人と比べてはもらいたくないなぁ……
あまり目立ちたくは無いってのが本当だし。
静かに美男子たちの秘め事が見たいだけなので!
「アプリリアお姉ちゃん、お話の続きぃ~」
「はいはい、それでね……」
アプリリア姉さんはエナリアに催促されてまたこの国や周辺国に着いてお話を続けるのだった。