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第63話 脱落者達②バケツ

「次が『バケツ君』……『君』なんていらないわよ!あんな奴。いっそのこと剣山(けんざん)を落とせばよかったんだわ!ああ、腹が立つ!」

 今度は急に激高するアメリアに戸惑いながら、とりあえず誠はシシトウを口に運ぶかなめに目をやった。

「アメリアよ。オメエと同じ『ゲルパルト連邦共和国』出身だっろ?前の大戦に負けてネオナチが一掃されてすっかり穏やかになったあの国らしくアイツも穏やかだったじゃないか。同郷の人間として多少は肩を持ってやっても良いんじゃないのか?」

 珍しくかなめが呆れたような表情でフォローを入れた。

「違いますー。アイツはゲルパルトでは少数派の地球のフランス系だもの。私は主流派のドイツ系。服飾デザイナーにしかなりたくないあの地方の連中とは違って重工業でしっかりとしたモノづくりで国を支えてるの!しかも、私のギャグのセンスは『純和風』だから共通点なんて無いの!全然違うの!」

 かなめの言葉にアメリアは強烈に拒否反応を示した。

「しかし、『バケツ』はたたき上げのパイロットだったぞ。これまでの六人の中では素質は格段に高かった。それに『高卒』の『下士官』だからな。人件費の観点から言っても一番適任ではあったと思うが」

 完全にバケツ扱いされている脱落者に同情を覚えつつ、誠はカウラの冷静な論評に耳を傾けていた。

「私はね、『俺はいい男だろ?モテてるだろ?』って感じの上から目線のおフランス下ネタが大嫌いなの!リーゼントに香水の匂いプンプンさせちゃって……ああ、思い出しただけで腹が立つ!初日から運航部の女の子にちょっかい出しまくって、帰りにこういう風に呑みに誘っても、いい男ぶりが鼻についちゃってかなめちゃんやカウラを口説こうとするの!……アタシはまるで眼中にないって感じで!キー!頭にくる!私は確かにでかいわよ!『東都タワーネタ』の宝庫よ!そうよ!三十路よ!行き遅れよ!年上よ!」

 誠にはアメリアのこだわりはよくわからずあいまいな笑みを浮かべるしかなかった。いわゆる『バケツ』氏が相当な典型的『エースのモテ男』キャラで、その狙った女性に対して態度を変えて接して来る姿が『バケツ』の眼中に入れてもらえなかったアメリアの気に障っていたことだけはよくわかった。

「その軟派な態度が、『硬派』が売りの技術部の野郎共を刺激しちゃってな」

 そう言いながらかなめは相変わらず速いピッチでラム酒のグラスを空けていた。

「島田先輩ですか……あの人、決闘とかしそうですね」

 かなめの言葉にほんの冗談で誠はそう言った。

「したな。しっかり」

「したんですか!」

 事実は小説より奇なり。カウラの返しに誠はただそう叫ぶしかなかった。

「まあな。配属三日目で医務室のひよこの手を握ったの握らないのがきっかけで裏の駐車場に島田の馬鹿がそいつを呼び出してな」

 そう言って卑しい笑みを浮かべるかなめに誠は彼女の血の気の多さに気が付いて身震いした。

「もしかして銃は使ってないですよね?」

 常に愛銃『スプリングフィールドXDM40』を持ち歩いているかなめの言うことなので、銃が出てくることも想定して誠はそうくぎを刺した。

「うんにゃ。ただの殴り合い……まあ、結果は見えてたんだけどな。『バケツ野郎』は島田の『無限のタフさ』を知らねえから」

 かなめはそこまで言うとにやりと笑って誠を覗き見た。

「なんです?その『無限のタフさ』って」

 誠はそこまで言うと、今度はアメリアが身を乗り出して話をしたそうな顔をしているのでそちらに目を向けた。

「まあ、島田君はいくら殴られても平気なのよ。そもそも相手が殴り疲れても平気で向かってくるし……まあ、五発もパンチを食らえば、そのパンチの軌道を覚えて避けたりカウンターを打ち込んでくるから。まったくいい気味だわ……殴り疲れて手が止まったところで一方的にタコ殴り。まあ、『バケツ』じゃなくても喧嘩で島田君に勝てる人がいるなら見てみたいわね」

 アメリアの言葉に誠は驚愕した。典型的なヤンキーの島田に喧嘩を売る度胸は誠には無いが、それが殴り疲れるまで平気で向かってくる化け物と聞くとさすがにゾッとしてくる。

「で、辞めたんですか?」

 誠は恐る恐るそう尋ねた。

「自慢の二枚目フェイスが台無しにされて……ああ、あの時ほど島田君が頼りになると思った時は無いわ」

アメリアはそう言ってシシトウに手を伸ばした。

「さらにアメリアが徹底的に『バケツ』のこれまでの女遍歴とかをネットにあることないこと書き込んでこれまで何股してたか知らないけとにかくアイツの国の人間関係ぶっ壊したりしたからな……まあ、うち向きじゃ無かったんだろ?ゲルパルトに残って一人で頑張るってさ……まあ空港で待ってるのは浮気を知られた女達のビンタの嵐だろうがな」

 ラムを片手に語るかなめの言葉を聞いて、誠は自分が『エース気質』でないことをひたすら感謝するしかなかった。


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