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027 荷物は最速で

 兄が帰宅し、屋敷の者たちへとお礼がてらお土産を配り歩いた。
 買ってきてくれていたいろんな種類のお菓子たちは、全員に分けても余るほどだった。

「相変わらず、すごい量のお菓子でしたね」

 部屋に戻ると、シェナが一息つくためにお茶を用意してくれていた。
 もちろんその横に兄が買ってくれたお菓子が数種類、一つずつ置かれている。

「今思えば、あの量のお菓子をほとんど自分で食べていたのよね」
「そうですね」
「これでは太るはずだわ」

 見たこともないお菓子を食べるのは、子どもの頃は本当に楽しかった。
 キラキラと輝くそれたちは、まるで宝石のようでもあったから。

「みんなもミレイヌ様からのお菓子をとても喜んでいましたよ」
「そっか。それは良かった。ふふふ。もう少し早く、こうしていれば良かったわ」
「?」
「だって美味しいものはみんなで食べる方が、もっとおいしくなると思うのよね」

 私が微笑むと、シェナも微笑み返してくれた。
 今までも決して一人占めしてたわけではないけど、でもこんな風に配ったのは初めてね。

 みんな初めて見るようなお菓子に、本当に喜んでくれていた。
 兄が見ていた私も、あんな風だったのかな。

「そうですね。そう思います」
「さて。明日はお兄様に頼んだモノ届くかしら?」
「何を頼まれたのですか? ずいぶん急いでお帰りになられましたが」
「もちろん、ダイエットに使える食材よ!」

 私はビシっと、人差し指を立てた。
 兄に頼んだのは、他国でしか入らないような食材ち。

 というのも、私が作れるレパートリーが少なすぎてダイエットスープも野菜スティックも飽きてきてしまったから。

 いくら私がテキトーな性格とはいえ、同じモノばっかりではさすがにねぇ。

 違うものが食べたくなってきたのよ。
 運動量を増やしたところで、前のようなフルコースを食べてたら痩せれないもの。

 こんな時こそ、兄の力が役に立つはず。

「そんなに珍しいものなのですか?」
「んー。どうなのかなぁ。でもこの国では見たことないのよね」

 もちろん頼んだものが全部そろうとは思ってはいない。
 だって、こんな感じのとは言ったものの、まったく同じものはないだろうから。

 名前が同じなら分かりやすいのだけど、結構違うのよね。
 
「野菜とかですか?」
「あー。野菜と香辛料ばっかり考えてたけど、考えたら肉という手もあったわね」
「肉って太るイメージですけど」
「そうでもないのよ。肉の種類によっても、調理法によっても変わるのよね」

 この世界で鶏肉はあったけど、ラム肉とかああいうカロリー低めのはないのかな。
 でもさすがに、魔物の肉は嫌ね。
 見た目的に。

 兄に頼むと、そういう系とかフツーに持ってきそうだし。

「ミレイヌ様って前から思ってますが、記憶力いい感じですか?」
「えー、そうかな」
「いくら過去とはいえ、一回生まれ変わってるわけじゃないですか。何年分の記憶を溜め込んでるんです?」
「あー。そう言われたら確かに。でも昔のは曖昧なものも多いのよ。ただね……結構嫌だったことの方が覚えてるものね」

 いい思い出の方がたくさん残っててくれればいいのに。
 ただ、そうも良かった記憶はないんだけどね。

 二人でそんな他愛のない話をしていると、部屋がノックされた。

「はい。どうぞ」
「奥様、すみません。今よろしいでしょうか?」

 そう言って入って来たのは執事長だった。
 やや初老でありながらも、真っすぐな背筋にシワ一つないスーツ。
 たぶんうちの父よりも年上なのだけど、このきっちり感が年齢を感じさせない。

「ええ。大丈夫よ。どうかしたのかしら?」
「ご実家よりかなりたくさんのお荷物が届きまして、全て厨房へ運び入れてありますがよろしかったでしょうか?」
「まぁ、もう届いたの? ずいぶん早かったわね。ありがとう」

 兄が帰宅してから、まだ半日も経っていないというのに。
 どれだけスピードアップしたのかしら。

 いくら私からのお願いとは言え、こんなに早いとは思ってもみなかったわ。
 執事長にうながされるまま、私は荷物を確認するために厨房へと向かった。

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