霊感のある友人の話
隣を歩く
彼女にはいわゆる『霊感』があるらしく、霊が
昔から、誰もいないバス停を指差し「あそこにおばあさんが立っている」とか、夜の無人の公園で微かに揺れるブランコを凝視しては「小さな男の子が座っている」などと言っていた。
当然、周囲からは「変わった子」と思われ、中には薄気味悪いと彼女を敬遠する者も。
だが、わたしと綾子は不思議と馬が合い、彼女のそんな特殊な感覚にも興味深いものを感じていた。
◆
わたしと綾子が特に仲良くなったのには、ある切っ掛けがあった。
十年以上も昔の、小学生の頃の話である。
綾子とは同学年ではあるが、わたしは彼女と同じクラスになったことは一度もない。そのため、顔は見知っていたが、言葉を交わす機会は全くなかった。
ある日の下校途中、偶然居合わせたわたしと綾子、ほか十数人の生徒が列をなして歩いている歩道に、居眠り運転の大型トラックが突っ込んで来るという事故があった。この時の事故で、何人かの生徒が亡くなったことを、わたしは後から知る。
怪我をしたわたしと綾子も、共に救急病院に搬送された。そのまま入院となり、同じ病室で数日過ごすことになった。
退屈な入院生活で暇を持て余したわたしは、同室の綾子に積極的に話しかけた。綾子は人見知りなのか、最初はかなり驚いた様子だったが、次第に打ち解けるようになった。彼女との交友関係は、この時から始まったのである。
◆
話を綾子の霊感に戻そう。
彼女に言わせると、霊は体が透けているとか足がないとか、世に知られるイメージとは全然違うらしい。そんな、いかにもな姿で視えるのではないのだそうだ。見た目は普通の人――生きている人間――と何も変わらないのだとか。
綾子も「彼ら」が視えるようになった当初は、それが霊だとは思わなかったそうだ。
そして彼女はこうも語る。
彼らは自分が死んだことに気付いていない、あるいは納得していないのではないか。だから成仏することなく、現世を
そう言うものなのか――視えないわたしには、今ひとつ理解が及ばないのだけれど。
◆
綾子が花屋に立ち寄りたいと言う。すぐに済むから外で待っていて――軽く
表で待つこと十数分。彼女は大きな花束を
「そんな物を持って、今日は何処へお出掛け?」
背の高い綾子を見上げるようにして訊くと、彼女は途端に重い表情になる。そしてそんな顔をわたしに向け、
「毎年この日に行ってるところ。今日は特別な日なの」
と答える。だが、わたしにはピンと来ない。
彼氏とか、好きな男の人に会うと言うわけではないだろう。そうであれば、わたしがついて行くのを快く思うはずがない。
まあこのまま同行するわけだし、いずれ分かることだ。わたしはそれ以上、言及しなかった。
◆
綾子がやって来たのはとある霊園だった。
彼女は広い敷地内を迷うことなく歩き、ある墓石の前で立ち止まる。
手にした花束を墓前に
――誰のお墓だろう。わたしは首を傾げる。
綾子のご両親は共に健在のはず。祖父とか祖母が眠っているのだろうか。
わたしはあらためて、黒い
『
え? わたしの名字だ。
わたしは動揺を隠せなかった。わたしの身内では、誰も死んでなどいないからだ。
同姓の――わたしとは関係のない、たまたま同じ名字の人? そうだ、そうに違いない。まったく綾子ったら、わたしと同じ森山姓の知人がいるのなら、もっと早く教えてくれても良いのに。
親友に目を向けると、彼女はまだ手を合わせている。閉じた目尻から、涙がこぼれ落ちていた。
「そんなに大事な人なの?」
わたしも軽く手を合わせてから、綾子に尋ねた。
「そうよ。わたしの、命の恩人――」
彼女はそう言いながら目を開き、わたしを見る。
「あの時は本当にありがとうね、
綾子が何を言っているのか、わたしには理解できなかった。彼女から感謝されるような覚えは、特に無いのだけれど。
「覚えてないの? あの時、あのトラック事故の時、真紀ちゃんが
わたしの脳裏に、あの時の光景が
そうだ、あの時、わたしは瀕死の重傷を負った。
そして――
「真紀ちゃん、
〈了〉