第六十三話 「龍神様」
「“
しゃらくとウンケイが目を丸くする。大男はニヤリと笑っている。その後ろの男は相変わらず、爪を見たりと退屈そうにしている。
「・・・それ以外の情報は?」
「がぁっはっはっは!!」
ウンケイが尋ねるが、大男はそれに答えず大笑いし始める。その様子に、しゃらくとウンケイは再び目を丸くする。
「すまんすまん。その前に名乗るのを忘れておったな。俺は“アドウ”。そしてこちらがここ一帯の領主“ソンカイ”様だ。
アドウという大男がしゃらくとウンケイに、自分と後ろの男を紹介する。しかし、後ろにいるソンカイと呼ばれる男は全く
「あァ、こちらこそ宜しく! おれはしゃらく。こっちがウンケイで、こいつがブンブクだ」
しゃらくが自分とウンケイ、ブンブクをそれぞれ指さしながら紹介する。
「うむ。では、詳細を話そう」
アドウが話し始める。
*
日の暮れた城の外広場では、
「ところで、“龍神”ってのは一体何なんだ?」
ウンケイが隣の男に尋ねる。
「あぁ、あれは
男はそう言うと、酒をぐいっと飲む。
「へぇ。天気を」
ウンケイが目を
「あと
男はニヤッと笑う。ウンケイはその話に眉を顰める。
「・・・その“龍神様”ってのは、人か?」
「さあな」
すると突然、ウンケイ達の後ろの方で
「何だとてめぇ! もっぺん言ってみろ!!」
大男の片方が詰め寄る。しかし華奢な男は全く
「何だありゃあ?」
その様子を見ていたウンケイが、酒を飲みながら呟く。
「あのでかい二人は
ウンケイの隣にいた男が答える。ウンケイはその二人組に目を付けられた華奢な男の方を見る。
「あっちは?」
ウンケイが尋ねる。
「あいつは・・・あぁ、あいつは確か、お前らと同じくこの前来たばかりの奴だぜ。誰かと話してるのを見た事なかったが、どうやら口が滑ったみてぇだな。ありゃまずいぜ」
男は目の前の状況に心配しながらも、止めに入る様子もなく酒を飲み進めている。ウンケイも特に動かず見ている。
「何黙ってんだよ!
向こうで、もう片方のリキ
「その汚い手で気安く私に触るなと言ったんだ」
「何だとてめぇ!!」
駄エ門とリキ丸の両方が、腰に差していた刀を一斉に抜く。その刀を華奢な男に向けるが、大男達の刀は華奢な男と比べると、かなりの大きさである事が分かる。しかしそんな物を向けられても、華奢な男は全く動じずにいる。周囲の男達はその様子に、「いいぞいいぞ」と盛り上がっている。
「痛い目見たくなきゃ土下座して
駄エ門がニヤリと笑う。
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
男がニッと笑い、自分も腰に差していた刀を抜く。
「よし分かった! お前はここで殺す!!」
リキ丸が刀を振り上げる。対する華奢な男も刀を構えて飛び上がる。周囲で見ていた皆の手に力が入る。
「何だァ!!?」
皆が一斉に音の方を見ると、音の正体は
「何!!?」
「!?」
止められた両組が目を丸くする。
「どうどう。水差して悪いが、こんな所で揉め事は止そう」
男は色白で端正な顔立ちをしており、駄エ門とリキ丸の二人程では無いにしろ背も高く、長い黒髪を後ろで
「何者だてめぇ!?」
駄エ門が刀を男に向ける。華奢な男も突如現れた男を
「・・・あいつは?」
その様子を遠くから見ていたウンケイが、隣の男に尋ねる。
「・・・あぁ。あいつも少し前に来た新入りだな。詳しくは知らねぇが、かなりの腕前と聞いたぜ」
隣の男が答える。するとウンケイの元へ、しゃらくが戻って来る。
「何がどうしたんだァ?」
「喧嘩だ。そしてあいつが
ウンケイが指さしながらしゃらくに説明する。
「へェ」
当事者の四人を見ていたしゃらくは、
「
「・・・」
長髪の男の正論にぐうの音も出ず、皆が押し黙る。
「・・・おいお前、命拾いしたな。だがこの事はチャラにはしねぇからな。覚えとけ」
駄エ門が華奢な男を指差して脅すと、駄エ門とリキ丸の二人が刀を
「やれやれ」
去って行く二人を見送った長髪の男が、溜息をつく。
「・・・またお前か。余計な真似しやがって」
華奢な男が刀を仕舞いながら、長髪の男を睨む。
「はは。そう言うなよ。僕は君を助けたんだぜ?」
「それが余計だと言ってるんだ! もう俺に構うな」
そう言うと、華奢な男も踵を返して去って行く。長髪の男は、その後ろ姿を見つめ優しく微笑む。
「よォ。あんた中々やるなァ」
背後からの声に長髪の男が振り返ると、そこにしゃらくがニヤニヤと笑って立っている。
「はは、ありがとう。君も中々やりそうだけどね」
「おうよ! おれは最強だぜ!」
しゃらくが腕を
「僕は“ツバキ”だ。宜しくね」
「おう。おれはしゃらくだ! よろしく!」
二人が固く握手する。その後も、“龍神様”を倒す為集められた兵達の宴は朝まで続いた。
完