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どうも、鬼嫁です


「──と、いうわけなのです。どうぞよろしく」
「待てどういうわけだ」

 薄暗い部屋。
 黒の皮張りのソファに当たり前のように座り、私は目の前の男性を見た。

 真っ黒いフードを深く被り、僅かにのぞいた赤い瞳が怪訝そうに私を見る。
 これが、今日初めてお会いし、婚姻の書類を交わし私の夫となった──魔王だ。

 黒い。
 黒すぎる。
 この城も装飾品も、魔王自身も。
 アニメやゲーム、漫画で見たような典型的な魔王だわ。

 城の裏にある門の先。
 禁断の森を抜けるとそこはもう魔王の住む世界。
 けれど王家の馬車で通った際も、この城の中にも、魔物の姿はない。
 なぜ?
 駆逐された? この魔王に。
 いや、同族にそれはないか。

「はぁ……。まったく……。突然文をよこしたかと思えば、不意打ちの強制婚姻の術付きとは……。しかもその相手はすでに馬車に乗り、城に入っていたのだからタチが悪い」

「それに関しては面目ないです」

 でも悪いのはあのアレクサなんとか国王です。
 私は一応被害者です。

「あの、魔王ならなんとかできるんじゃないんですか? この強制婚姻」

 すごい力があるから魔王なんじゃないの?
 なんでこの人、やり返すことなくおとなしくしたがってるのかしら。
 魔王の方が国王よりも強そうなイメージなんだけど。

「国王にのみ受け継がれる【封制印(ふうせいいん)】。あれを押されれば、たとえ魔王であろうと簡単には打ち破ることはできん。……厄介な品だ。はぁ……」

 そんな便利な品持ってたの!? あのポンコツ国王!!

 だからんなに強気なバカが出来上がったのか……。
 妙に納得してしまうのは仕方がない。
 あんな暴君初めて見たもの。

「魔王立場弱すぎません? 仮にも弟なんですよね? あの人」
「っ、……知っているのか。異世界人が」
「まぁ、ここにきてすぐこの世界についての教育を受けましたし」

 そう。国王と魔王。
 二人は元は母違いの兄弟だ。

 王妃様の子どもとして生まれた魔王で国王の実兄のゼオンなんとか様、側室の子どもとして生まれた実弟の現国王アレクサなんとか様。

 5歳で闇の魔力を持っていることがわかった魔王様は、母君である王妃様とともに魔界へ追放された。
 そして三つ年下のアレクサなんとか様が王太子に。その母である側妃が王妃になった──。

「俺はもう、あれに関わる気はない。ここで静かに生きて、静かに朽ちるのみだ」

 えぇ……陰キャか。

「私は滅ぼしたい気持ちでいっぱいなんですけどね、あの国」

 だって考えても見てほしい。

 いきなり連れてこられて婚約者にさせられて、しかも相手には本命の彼女がいて、恋人贔屓されて挙句婚約破棄で追放よ!?
 怒らない方がおかしいわ!!

 私はあいにくと捨てられて泣くような可愛げのある性格はしていない。
 泣いても状況は良くならないのだから、悲しむくらいならいっそのこと爆発させるタイプだ。
 滅ぼしたって構わないだろう。

「悪魔か君は......」
 若干頬を引き攣らせながら放たれたその言葉に、私はにっこりと晴れやかな笑みを返した。

「悪魔? いいえ────鬼嫁です」
「……」

そして魔王は本日何回目かの盛大なため息をついた。

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