280 道中①
まず、第一中継地のサライへ。
その後、第二中継地の西のサライにて、先行していたセラとジェラードと合流。
そして、メロ共和国へと入る、といった予定だ。
ムハドとリートを先頭にして、3列に並んだラクダ達と、その周りを囲うかたちでキャラバン達、また一体の馬が、砂漠の上を進んでゆく。
岩石の村のサーシャ達は、隊列のちょうど真ん中あたりにいた。商隊の位置としては、そこが一番安全なのだという。
ただ、馬車はなく、サーシャも他のキャラバンと同じように歩いていた。
真ん中よりも少し後方のあたりを、マナトは歩いていた。
……やっぱり、人数もラクダの数も、多いなぁ、まさに商隊だ。
マナトの目の前を、サーシャ達が歩いていて、横には3列のラクダ達、また随所にキャラバン達が歩いているのを見ながら、マナトは思った。
「……んっ?」
前を歩いているサーシャが振り向いて、マナトのほうを見ている。
と、サーシャが歩幅を調整しながら、マナトのもとへと近寄ってきた。
「どうしました?」
マナトは、平行して歩きだしたサーシャに問いかけた。
「……あなたのことを、少し、ラクトから聞いたの」
サーシャの少し霞みのある声が聞こえた。
「えっと……僕のことを?」
「別の、異世界からやって来たっていう……」
「あぁ、そうですね、はい」
「私の描いた絵画を、あなたは、海と、言った」
「あっ、そうだったと思います」
マナトは岩石の村でのラピスのことと、サーシャの描いている絵画を、また、サーシャに、海に行ってみたいのか、と言っていたことを思い出した。
「あなたの世界には、私の描いていたような風景が、広がっているの?」
「ええ、そうですね。風が強いと白波が立って、ちょうど、サーシャさんが描いていたような景色になります」
「……」
サーシャが、その琥珀色の瞳を、チラッとマナトへ向けた。
「どうして、この世界に?」
「それは、そうですねぇ……」
マナトは前を向いて歩きながら、言った。
「気がついたら……としか、言いようがなくて」
「……そう」
「ただ、そうですね。……前にいた世界では、辛い日々を過ごしていました。うまく言えないけど、出口のない、いつ終わるとも知れない闇の中を、ずっとさまよっているような、まあ、そんな感じだったと思います」
「……ごめんなさい」
「あぁ、いいんですよ。……だんだん、その時の記憶も、遠くなっているので」
「……聞いても、いい?」
「もちろん。どうぞ」
サーシャの言葉に、マナトは愛想よくうなずいた。
「もし、そのまま、その時の記憶がなくなってしまったら、幸せと思う?」
「記憶がなくなる……」
……あっ、それは、どうなんだろう?