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 日本のはしっこ。
 ハテノ市の今夜はハロウィン。
 そこに住む佐竹 うさぎちゃん。
 中学二年生。

 あら夕方の闇から・・・・・・。
「「「トリック・オア・トリート! お菓子をくれなきゃいたずらするぞ」」」
 お化けたちがやってきました。
「「いらっしゃーい」」
 彼女と仲間たちは、街の中の友達の家を飾り付け。
「「お菓子あげま~す」」
 今日配るのは、ロリポップチョコ。
 まあるいチョコレートトリュフにチョコをコーティング。
 オレンジやパイナップルのドライフルーツをのせて。
 カラフルな粒、アラザンやナッツをそえて。
 これ、うさぎちゃん考えてみんなで作ったんですよ。
 お化けたちには大盛況!

 そして、今日のうさぎちゃんの仮装は、体全体を使った、一冊の本なのです。
 背中から延びた、緑のマントのようなもの。
 両手に持つ棒で、大きく広げることができます。
 内側に下げた紙には、たくさんのイラストが下げられています。
 お皿に盛られた果物や大きなケーキ、鳥の丸焼きなどの料理も。
 カラーイラストのコピーですが、もとは黄ばんだ古い紙だとわかります。
 後ろから見ると、表紙がわかりますよ。
 
「The book of household management」

 19世紀、ヴィクトリア王朝時代のイギリス。
 150年くらい前にイザベラ・ビートンという人がかいた、伝説的家事の本です。
 そのイラストは絵はがきになるほど、有名です。
 日本だと、「ビートン夫人の家政読本」として知られてますね。

 うさぎちゃんはさらに、そのオレンジ色の長い髪を編んで、上に立ててます。
 ちょんまげみたいに。
 顔は穴の空いた紙にはめて。
 首から下に書かれた、メイドさんの体と合わせて。
 これは栞なのです。

 モグモグ
「ずいぶん手の込んだ仮装だね」
 トンガリ帽子の魔法使いくんもそう思いますか。
「まあね。
 この本は「ビートン夫人の家政読本」
 ずっとほしかった本なの。
 ハロウィンは、亡くなった人が帰ってくる日でしょ。
 私の感動をご先祖さまに、お知らせしようと思ってね」
 すると、一緒にお菓子を配っていた女の子。
 チョコレート怪人が、何かに気づいたようす。 
「それって、お盆の前にかった本でしょ。
 お盆の時に知らせなかったの? 」
 このチョコレート怪人は、うさぎちゃんのお友だち。
 安菜 デ トラムクール トロワグロちゃん。
 チョコレート色の肌に合わせた板チョコのマスク。
 茶色いジャージにガトーショコラやチョコパフェなどの写真を張りつけた、シンプルなものです。
 
「私もそう思ったんだけどね」
 うさぎちゃんの答えは?
「私って、出所不明の養子だし。
 お父さんとお母さんは駈け落ちで、実家との縁は切れてるでしょ。
 お詣りするためのお墓がないの」
 まあ、それで・・・・・・。
「今日なら、帰ってきたご先祖さまは街を歩き回るでしょ。
 どこかで見てもらえると思って」
 安菜ちゃんもそれを聴いて、神妙な気持ちになったみたい。
「ウカツなこと聴いたかな。
 あんたが生きてて良かった、と伝えられるのは、今日がチャンスって訳ね」
 良いお友だちを持ったね。
「私も、つい最近思い付いたんだけどね」
(私、あなたのお陰で幸せになれたよ。
 ありがとう)

 その、うさぎちゃんの考えが、確かに私に届きました。
 私は嬉しくなって足取りが軽くなりました。(足は、ないけど)
 心は晴れやかに、天に昇っていきましたた。

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