72.は強かった! リッチー副団長!
「あ、リッチー副団長たちに動きが」
レーダーを見ていた安菜から。
「帰ってきた」
まっすぐここへ?
「そう。福井沖の遠くからね。
度胸、いいのかな? 」
ボルケーナ先輩が怒っているならね。
たぶん、怒ってる。
「それと、こん棒エンジェルスの移送体制がととのったから、大型ロボット組は交代で休息をとれって。
達美さんのお兄さんから」
そう言えば、もう夕飯の時間だね。
突然おなかがすいてきた。
やっぱり緊張しっぱなしだったらしい。
「じゃあ、1人づつ、じゃない。1機づつ休んでもらいましょう。
食事なんかは、おにぎりとか持って、機体のなかでとるように。
最初は、パーフェクト朱墨から。
次にディメンション、ブロッサム。
最後に私たちで、良いかな? 」
「それは、どういう基準でしょう? 」
はーちゃんに聴かれた。
そしたら安菜が。
「当てて見せよう。
同じ1機の戦力が失われるなら、4人の支度をすませるのが時間かかるから」
他の機からも反対は、なかった。
そのまま伝えた。
ああ。
雨はやんだみたい。
月がきれいに見える。
パーフェクト朱墨が、青いドラゴンの頭を堤防上の道に寄せた。
そこがコクピットなんだ。
器用にパイロット2人がおりる。
肩に止まっていた2人も、軽々と飛んでいっしょに。
そこからキッチンカーがならんでるエリアへは、少し走らなきゃ。
やがて河川敷に、新しい轟音がやってきた。
あの、ボルケーナ先輩から獲物をうばった七星たちが。
トリコロールが1機、灰色が6機。
7機は、私たちの後ろに降りてきた。
ディメンションやブロッサム、パーフェクト朱墨がライトで照らす河川敷や国道に。
先頭にいたのはリッチー副団長のヒーロー然とした機体。
白をおもに、赤、青、黄色をアクセントにしていたはず。
その姿が、痛々しくなってる。
ウイークエンダーと同じように煤けていて、右肩から下が、ない。
焼き切られたんだ。
巨人に切り込んでいたはずの赤い刀も。
それでも、左手は握りしめられてる。
あの中身は、黒い巨人のパイロットだ!
生きてはいるようだね。
もし、リッチーさんの手のなかで巨人になれば?
巨人になる前に、黒い炎が自分をつらぬいてしまう。
「見て」
安菜がさそう。
「後ろの機体は、傷ひとつ無い」
ほんとだ!
「じゃあ、リッチーさんだけで巨人をやっつけたってこと?! 」
こんな短時間でできるか信じれないけど、そうだね。
リッチーさんの七星が、ギシギシと音を立てた。
歩きはじめたんだよ。
ポルタに向かって突っかえながら、バランスをくずしながら。
こん棒エンジェルスを見張っていた七星たちが道を開いた。
ポルタの前に来たリッチー機。
左手を地面につける
そして、拳を開いた!
巨人のパイロットを解放したんだよ!
形がゆがんだ人影が、こげた破滅の鎧が、ごろりと転がった。
それを見張っていたゲコンツ星隊の列が、ブルッとふるえた。
七星は、立ち上がることはなかった。
変わりに、背中からドン! と小さな爆発が起こった!
そこにある緊急用ドアが、非常用火薬でふきとんだんだよ。
内側に電子機器を張り付けた分厚いドアが真下に落ちて、泥水をはねあげた。
折りたたまれたハシゴがおりてくる。
灰色の人影が現れた。
私と安菜の着てるのと変わらない、パイロットスーツだよ。
人影はハシゴに頼らず、ヒラリと10メートルは飛び下りた!
マイケル イーサン エルマー リッチー。
シロドロンド騎士団の副団長その人だった。
無事に着地した彼は、大きなコウモリ傘をさした。
そのまま、巨人のパイロットに近づく。
ドン!
破滅の鎧からも、七星の背中と同じような爆発が起こった!
ゆがんだ鎧を、それで開いたんだ!
中から、パイロットがはいだした。
黒い、出っ張りのない服。
その上の顔が白く、目立った。
背は高く、がっしりしてる。
たくましい、地球人そっくりの姿。
その手が、急に腰にのびた。
次の瞬間、リッチーさんにまっすぐ向けられる!
パンパンパン
音は聞こえなくても、そう鳴ってるのはわかる。
3つの白に近い黄色の火花で!
ピストルだ!
そして狙われたリッチーさんは・・・・・・。
いない?
上だよ!
傘を持った影が、10メートルほど上空にいる。
傘がたたまれる。
投げたボールそのままの飛びかた。
リッチーさんは傘を、剣のようにあつかった。
まっすぐ振り下ろされた傘。
パイロットは舗装された路面に叩きつけられた。
水溜まりがはげしく円形に吹き飛ぶ。
しぶきが勢い良く、あたかりをかがやかせた。