第24話 モーニングルーティーン。(和の視点)
そういえば、亡くなった
祖母は時々、耳慣れない言い回しを使っていた。「
しかし、あの
顔を思い出そうとする。声を思い出そうとする。だが、ぼやけたイメージの輪郭さえ
学校へと続く、いつもの道を歩く。最初の頃と比べて、その場所を歩いていなくても、明確に思い浮かべられる風景が増えてきた。たとえば、まだほとんど話したことはないけれど、同じクラスの
けれど、これはあくまで
認識が不安定な場所を通った時に僕が感じる
考え始めると止まりそうにない。気づけば、ひよさんの家のすぐ目の前に立っていた。僕はインターホンを押すでもなく、ただ門扉の前に
三谷さんの家の辺りで、僕はひよさんにメッセージを送信している。これも毎朝のルーティーン。「もうすぐ着きます」と書かれた、僕のメッセージの下には、既読のサインがついている。返信がないということは、つまりひよさんの用意がまだできていないという意味だ。
もっとも、ひよさんが僕に嫌悪感を抱いて、避けようとしているのでなければ、の話だけれど。
僕はひよさんの家の前に立ちながら、その可能性について思いを巡らせた。もし僕の存在のせいで、ひよさんが家から出られないのであれば、ここで待つタイムリミットは何分先ぐらいだろうか。このまま返信がなく、玄関の扉が開かないなら、「今日は先に行きます」とメッセージを送り、静かにこの場から立ち去ればいい。
親に伝言してもらうとか、ひよさん自身から「先に行って」とメッセージをくれる可能性も考えられるけれど、できる限りひよさんに自発的に動いて欲しくない。そのことでまた、心理的負担が増すことのないよう、気遣いは徹底しなければならない。僕がそう決めているのだから。
立ち去る準備の判断に至る前に、すぐに扉の鍵を回す大きな音が響き、程なくしてひよさんが家から姿を現したので、僕はほっと胸を
「おはよう。待たせてごめんね」
「忘れ物ない? 慌てなくてもいいからね」
と、返した。
「あ……あのね、酔い止めの薬は家にはありませんでした」
ひよさんが控えめな声で、申し訳なさそうに伝えてくる。彼女の言葉に敬語が混じっているのは、僕への警戒感がまだ解けていないからかもしれない。だけど、これぐらいの距離感が、僕たちにはちょうどいいのかもしれない、とも思う。
僕は「ちょっと待って」とひよさんに告げてから、背負っていたリュックを胸の前に回した。ファスナーを開け、用意しておいた、一回分の酔い止めの薬と小型のミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。
「ここで飲んでいこう。これ、効くまでに三十分かかるらしいから」
僕の提案にひよさんは小さく
その仕草は
学校に向かう道中、僕たちは
ひよさんも「今日のプログラムよく覚えてなくて」「ちゃんと
穏やかで、落ち着いた時間だった。僕はもう少しこの時間が続けばいいのに、と思い始めたが、赤い
稲継さんとの距離が、少しずつ詰まっていく。稲継さんは僕を
「おはよう、ひよ。おはよう、
「
ひよさんが、
「ひよ、今日大丈夫? 結構バスの時間長いみたい」
「なごさんに酔い止めもらって飲んできたから、たぶん大丈夫だよ」
ひよさんの言葉に、稲継さんは小さく息を吐き、僕の方を軽く
「オカンかよ……」
稲継さんは、やや強引にひよさんの肩を引き寄せた。その瞬間、僕のお役目は一旦幕を閉じることになる。