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【黒咲ノアVS姫川天音】
 ノアちゃんと姫川さんの試合をわたしこと鳴海千尋と天文部のメンバーは固唾を呑んで見守った。

 この試合に勝てば来年ノアちゃんはeスポーツ部発足のための五人目のメンバーになってくれる。

 逆に姫川さんが負ければ、彼女はノアちゃんの舎弟になる。

 第一ラウンド。
 開幕と同時にノアちゃんの操るセラノの必殺技『試験薬A』が炸裂した。試験官が爆発する。

 つづけて『試験薬B』! 対戦相手に毒ダメージを与える。

 ノアちゃんの飛び道具連打は姫川さん操るアストリアを近づけさせない。

 初心者がよくやる戦法だが上級者にも有効な戦術だった。

 アストリアは試験薬をガードしながらすたすたとセラノに近づいていく。

 あと一歩のところで試験薬をガードすると、セラノはガード硬直したアストリアに攻め込もうとした。

 ジャンプキックからしゃがみ込み小パンチ連打! ガード方向を揺さぶる戦術だ。ノアちゃんやる!

 アストリアの体が蒼白く光った。パワーバースト【攻撃ボタン三つ押し】だ。全身無敵の攻撃判定がでる。ゲージを一本消費するが、流れを変えたいときに有効だった。

 初心者だったわたしも画面上でなにが行われているのか理解できるようになってきた。わたしもこのゲームのルールに慣れてきたのだ。

 パワーバーストを喰らってよろめいたセラノにアストリアの突進技『ラッシング・エッジ』が極まる。

 ダウンしたセラノにアストリアは起き攻めをしかける。
 起き攻めとは、ダウン状態から起き上がるコントロール不能の間に回避しにくい連係攻撃をしかけること。

 隙の少ないしゃがみA→立ちAを連打。再びしゃがみ強キック。これがヒットした。すかさず通常技連打でライフを削る。必殺技は威力が大きいが隙も大きいためPディフェンスされやすいのだ。

 あえて通常技の連係で確実に体力を削る姫川さんは達人だった。

 こんどはセラノがパワーバーストを使用した。
 流れは変わらなかった。姫川さんはバーストがくることを読んでいたのだ。無敵時間が終了してからまた攻める。

 一見、超必殺技が発動しない地味な試合に見えるが高度な心理戦が行われていた。

 セラノの残りライフが少なくなると姫川さんは突進技のラッシング・エッジを連打!

 必殺技はガードしてもライフが削られる。
 セラノは削りダメージでKO。
 第一ラウンドは姫川さんの勝利!

 わたしたちは歓声をあげた。
 敗北したノアちゃんはゆっくりと右眼の眼帯に手をかけた。

「朱雀の瞳の封印を解くときがきたようだ」

 彼女のヴォイスは芝居がかっている。
 ノアちゃんが眼帯を外すと深紅の瞳があらわになった。

 眼帯を取ったノアちゃん。眼帯の下には深紅の瞳があった。
 天文部メンバーは息を呑んだ。

「ふふふ、驚いているようだな。この朱雀の瞳は十万年にひとり、自然発生する。世界の終末に闇の陣営ベルゼサタナスから人類を守る使命を持って生まれてくる……という設定」

「設定って言っちゃったよ!」

 姫川さんもノアちゃんには調子を崩されるようだ。

「突然だがあなたたちはボクと同じ使命を持って生まれてきた光の使徒カフラマーンの騎士かもしれない」

「なんだベルゼサタナスとかカフラマーンって!」
 姫川さんが指摘した。

「ベルゼサタナスは魔王でござる。カフラマーンの騎士は人類の終末に現れる異能力集団」

「もうすぐ中学を卒業するのにばかなことを言って……。夢から覚めなさい!」

「ボクは永遠に中二病っす!」

「その目カラコンね」

「そうです」

 ノアちゃんと姫川さんの会話を不快そうに聞いていた折笠さんが叫んだ。

「ヒメ! 彼女は片方の眼だけでさっきの試合をこなしていたことになるわ! 両目になった彼女は油断できない」

 その言葉に姫川さんもはっとした。
 ノアちゃんは不敵に微笑んでいる。その自信は虚像ではない。

 
挿絵



イラストレーターはイナ葉さまです。無断転載・AI学習禁止です。

つづく

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