俺の行動
それを聞かされた時はショックのあまり言葉を失ってしまったほどだ。
だけど、それと同時に興味もあったんだよな。
だから、もう少し詳しく聞いてみることにしたんだ。
それで話を聞いてみると、どうやらこの世界には他にも魔王と呼ばれる存在がいて、
そいつらを倒すために召喚されたのが俺達ということになるそうだ。
そしてその魔王というのは元々俺の身体だったものらしくて、今はこうしてエルナさんと融合して一つの存在になっているというわけだ。
要するに今の俺の身体はエルナさんそのものというわけなんだが、それはさておき、
肝心の魔王としての活動についてなんだが、基本的には何もしなくていいと言われたので拍子抜けしてしまった。
その代わりと言っては何だが、一つ条件があるとのことだった。
それは、定期的に力を放出する必要があるということだったんだが、それは具体的にどういうことなのかと尋ねると、
それはこういうことだという答えが返ってきた。
何でも、この世界の魔力というものは、人々の負の感情やストレスといったものに影響を受けやすく、
それによって魔物が生まれたりするようになるらしいのだそうだ。
だからこそ、そのエネルギーを適度に放出することが必要なんだとさ。
そのために俺が呼び出されたわけだな。
(なるほど、そういうことだったのか)
納得していると、今度は逆に質問されてしまったよ。
それに対して素直に答えると満足そうに頷いていたので、これでよかったのだろうと思って安堵したんだけれど、
最後にとんでもないことを言われたんで驚いてしまったよ。
なんと、俺に嫁になれって言うんだぜ。
冗談かと思ったが本気のようだったんで断ろうとしたんだけど、強引にキスされちまったんだ。
そしたら急に意識が遠くなっていき、気が付けば知らない部屋にいたんだ。
しかも、手足には枷のようなものが嵌められていて身動きが取れなかった。
そこで初めて自分が捕まってしまったのだということに気が付いた。
これからどうなるのかと思っているとドアが開いて誰かが入ってきたんだ。
「あら、目が覚めたみたいね」
そう言うと彼女はこちらに近づいてきたかと思うといきなり抱きついてきたものだからビックリしてしまったよ。
しかも、それだけではなく首筋に舌を這わせてきたものだから背筋がゾクッとする感覚に襲われてしまったんだ。
さらに追い打ちをかけるかのように耳元で囁かれたことで頭の中が真っ白になってしまった気がした。
そのせいで抵抗する気力すら湧いてこなかったわけだが、それでもなんとか正気を保つことはできたと思う。
しかし、それも時間の問題かもしれないという予感はあったし、実際にその通りになったんだが、
だからといって諦めるわけにはいかなかったので必死に抵抗を続けた結果、
どうにか逃げ出すことができたものの捕まってしまった挙句、散々弄ばれてから捨てられた挙げ句の果てに見世物小屋に売られることになったってわけだ。
(くそっ、せっかく平穏に暮らしていたのにこれじゃ意味ないよな)
そう思いつつも心の中で悪態をつくことしかできなかった。
するとその時、後ろから声をかけられて振り返るとそこには見覚えのある顔があった。
そこにいたのは、俺をここに連れてきた張本人であるシルフィーだったのだが、
その姿を見た瞬間怒りが込み上げてきてしまって気がついた時には掴みかかっていたよ。
当然向こうも応戦してきたから殴り合いの喧嘩になっちゃったんだけどね、
結局負けた俺はそのまま連れ去られちゃったってわけだ。
まあ、でも、仕方ないよな、だって、俺にはどうすることもできないんだから、このまま従うしかないだろ。
それに、もし逆らうような真似をしたら殺されちゃうかもしれないし、
そうなったら家族にも迷惑がかかるだろうし、何より俺自身生きていけなくなるだろうから、
我慢するしかないと思うんだ。
うん、きっとそうだよ、そうだよね。
(ふぅ、やっと落ち着いたみたいだな……)
そんなことを考えているうちにだんだんと冷静になってきたので、
とりあえず現状を確認することにすることにしようかと考えて周囲を見回してみたところ、
そこはどこかの地下室のような場所だったようで、目の前には大きな鉄格子があり、
その隙間から通路が見えるようになっていたんだが、その先を見てみると奥の方で
何やら動いている人影のようなものが見えた気がしたので目を凝らしてみたところ、やはり人だったらしいことがわかった。
そうすると、それに気が付いたのか向こうから声をかけてきたんだ。
確か、ここに来た当初はずいぶんと訳のわからないことを言われたせいでわけがわからなかったんだが、
冷静になってよくよく考えてみると、その内容が真実であるという保証はないことがわかったので、
やはり信用しない方がいいだろうと思ったため警戒することにしたわけだ。
ところが、彼女はそれでも諦めきれない様子で話しかけてきたんだよね。
それに対して俺は素っ気ない返事を返したのだが、その後も懲りずに話しかけてきたためさすがに鬱陶しくなってしまい、
つい声を荒げてしまって怒鳴られる羽目になったのだった。
その時の態度が悪かったために罰を食らうことになるわけだが、その内容というのが実に衝撃的というかとんでもないことであった。
なんと、俺を処刑するというものだったんだからさあ大変!
こうして処刑場に向かうことになったわけなんだけど……。
(あれ? そういえばさっきシルフィーが言ってたんだけど、確か俺には強力なスキルがあったよな……?)
そう思った途端、急に不安になってきてしまったのだが、今更どうすることもできないので覚悟を決めることにしたのだ。
(大丈夫だ、問題ない……)
そう自分に言い聞かせながらも自分に言い聞かせ続けた結果、ようやく自分の置かれている状況を受け入れることが出来た気がしてきたし、
腹も括れたような気がする。
それから程なくして処刑場に到着したのだが、そこには既に大勢の人達が集まっており、みんな俺を見て嘲笑っていたんだ。
これから自分がどうなるのかを悟った俺は、あえて抵抗することなく素直に従おうと決めたんだ。
そして準備が整ったところでいよいよ執行されることになったわけだけれども、それにしても本当に上手くいくのだろうか。
(まあ、どっちにしろ逃げられないだろうから大人しく待っているしかないんだけどな)
と思いながら待っていると処刑人がやってきて俺を羽交い締めにして押さえ付けてきたんだが、その力は思った以上に強く、
全く歯が立たなかった為あっという間に取り押さえられてしまったわけだ。
そこで、手足を鎖で拘束されると共に身動きが取れなくなってしまったものの、
不思議と痛みは全く無かったのでその点だけは良かったと思っていた矢先、急に眠気に襲われてしまい意識を失いそうに
なったところで処刑人達が何やら話し合っている声が聞こえてきたような気がしたけれども、その内容までは聞き取ることが出来ず、
気が付けばいつの間にか意識を手放してしまったのだった。
目を覚ますと今度は手足の自由を奪われており、まるで芋虫のように地面の上を這いつくばるだけの状態になっていることに気が付いた。
(あれ? なんで俺がこんなとこにいるんだっけか?)
少し困惑していたものの、段々と思い出すうちにこれまでの経緯を思い出すことに成功した訳であるが、
それがあまりにも酷すぎる仕打ちの数々であり、今更ながら怒りが込み上げてきたせいで思わず叫んでしまった。
(こんな理不尽なやり方しかできねぇのかよ!)
そう思った直後、後ろから声が聞こえてきたんだ。
それは、この国の女王を名乗る女であり、かつて魔王の側近だった女でもあり、
歴代最強の勇者ですら歯が立たず負けてしまった相手であったのが彼女だったらしい。
彼女がなぜそのような力を持っているのかというと、彼女は生まれつき特殊な能力を持ち、
その能力を制御することで絶大な魔力を使えるようになり最強と呼ばれたそうだ。
また、彼女は世界を支配した後も自らの力を磨き続け、最終的に人智を超えた存在にまで至ってしまったのだという。
それがつまりどういうことかというと……うん、まあそういうことだと思うね。
とにかくとんでもない奴だったんだということがわかってもらえれば良いと思うよ。
そんなわけで現在に至るわけだが、未だに状況が飲み込めずにいたので困っているというわけなのだが……これからどうなることやらと考えながらも、
まずは現状を理解しなければ始まらなかったので改めて彼女の話を聞いてみることにしたのであるよ。
「あの、エルナさん?」
恐る恐る尋ねると、彼女はニッコリ笑って答えてくれたよ。
「どうしたの? そんなに怯えなくても大丈夫よ」
そう言ってもらえたおかげで少しはホッとしたんだが、それでもまだ不安だったので思い切って質問してみることにしたんだ。
そうすると、意外な答えが返ってきたんだよ。
エルナさんはにっこり笑ってこう言ってくれたんだ。
「今すぐ殺すつもりは無いわ。今まで通り生活しているといいでしょうね」
そして、俺の頭を優しく撫でてくれたのである。
俺には訳がわからなかったけれども、とにかくその言葉を信じるしか道は残されていないことがわかっていたから信じるしかなかったんだ。
しかも、こうして頭を撫でられているとなんだか心地が良いというか幸せな気持ちになれるような気がしてきてつい甘えてしまうのであった。
しかし、これは果たして俺を油断させるための演技かもしれないというのにだ。
だけど、今だけは信じてもいいのではないかと思ってしまう自分も存在していたのであるよ。
しばらくされるがままになっていると、ふと我に帰って我に返ったところで恥ずかしくなってきたため慌てて離れたところ、
何故か残念そうな表情を見せるエルナさんの姿があったのだった。
そんな様子に戸惑っていると、彼女は笑顔で言ったんだ。
「もし、私の味方をしてくれるのなら悪いようにしないわ」
「本当ですか?」
思わず聞き返してしまったところ、彼女は微笑みながら答えたのであった。
その後、俺が連れ去られてから処刑されるまでのやりとりについて詳しく聞くことが出来たんだが、
どうやらあの後もシルフィー達の仲間に加わるよう強要され続けていたらしいことが分かったため、
それを拒否するとエルナさんの命令で強制的に従わされていたようだ。
要するに彼女達にとって俺は都合の良い存在だったってことなんだな。
その話を聞いたときは複雑な気持ちではあったが、その一方で少しだけ安心している自分がいて不思議だったよ。
どうしてそう思ったのか自分でもよくわからないんだけど、
きっと彼女が味方だっていうことがわかって精神的に安定できたからなんだろうな……と思うことにした。
だって今まで酷い目に遭わせてくれた連中が一転して味方だって言うんだから信じる他にないだろうからね!
まあそういう訳だけど、とにかく今は現状を受け入れることにして受け入れる以外に無いわけで、結局、彼女に従う以外なかったのであるよ。
そういうわけで、俺は一旦、洞窟に戻っていたんだけど、さすがに一人で置いていく訳にもいかないため一緒に戻ってきていたのだが、
何だかんだで仲良くなったのは驚いたかな。
彼女と話していてわかったことがあったんだよ。
どうやら彼女は現在17歳のようで歳も近いことから友達感覚で話せることに気付いてからは距離が近くなったような気がするな。
後は、この世界の文化や常識なんかについてもいろいろと教えてもらったので今後の役に立たせてもらうとしようかね!
そんなこんなでエルナさんの手助けを受けながら生活を続けること1週間が、経過したところでいよいよ行動を起こす時が来たようだな。