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仲間とはぐれる

その男の特徴を聞いたところで、思わず反応しそうになったんだけどなんとか我慢することができたぜ。
なぜなら俺にはそいつの正体がわかっていたからだ。
それは紛れもなく俺のことだったからだ。
まさか、あいつがこんなところに来ているとは思わなかったけどな、
まあ、あいつのことだから心配はいらないと思うが、一応気をつけるように言っておこうと思う。
それよりも今は目の前のことに集中しなければならんからな、気を引き締めていこうじゃないか!
よし、そうと決まればさっそく出発だ。
気合を入れて出発した俺達は、それから暫くの間旅を続けていたんだが、
途中で休憩するために立ち寄った街でとんでもない奴に出くわすことになってしまったんだ。
そいつはいきなり声をかけてきたと思ったら、馴れ馴れしく話しかけてきやがったんだぜ、まったく迷惑な話だよな。
(ちっ、なんなんだこいつは? なんでついてくるんだよ!)
そう思いながら睨みつけても全然気にしていない様子なんだよ、それどころか嬉しそうに笑っていやがるんだ、
気味が悪いったらありゃしないぜ。
おまけに腕を絡めてきやがる始末だし、本当に勘弁して欲しいよな、全くもって不愉快だぜ。
そんな事を考えているうちに目的の場所に着いたようだな、やれやれやっと解放されると思うとホッとしたぜ。
中に入るとそこには、立派なお屋敷があって中もかなり豪華な様子だったんで少し驚きながらも中に入ることにしたんだ。
そうするとそこにいた人物を見て更に驚くことになったんだよ、何故ならそこにいたのは見覚えのある顔だったからだよ。
そう、そこに居たのは以前一緒にパーティーを組んでいた魔術師の男だったのだ。
しかし、様子がおかしいことにすぐ気がついた。
というのも彼の様子が明らかにおかしかったのだ、目は虚ろで焦点が定まっていないような状態だったのである。
まるで別人のように変わり果ててしまっていた彼の様子に、戸惑いつつも恐る恐る声をかけてみることにする。
だが返事はない、それどころかこちらに気づいていないようだ。
どうしたものかと考えているうちに今度は別の声が聞こえてきたのでそちらに視線を向けると、そこにいたのは見知った女性の姿であった。
彼女はこちらを見て微笑むと手招きしてくるではないか、それを見て迷わず近づいていくことにしたのだが、
次の瞬間信じられない光景を目にすることになるとは夢にも思わなかったのである。
なんと彼女が突然襲い掛かってきたのである。
咄嵯に身をかわそうとしたものの、間に合わず捕まってしまう。
振り解こうとしてもびくともしないばかりか、ますます強く締め付けられていくばかりだ。
このままではまずいと思った瞬間意識が遠のいていったのだった。
そして、気がつくとベッドの上に寝かされていたようである。
周囲を見回すとそこは寝室のようだった。
一体どういうことなのかと混乱していると、そこへ一人の女性が姿を現したのである。
どうやら彼女が助けてくれたらしいことが分かったためお礼を言うと、その女性は微笑みながら答えた。
それを聞いて安心したのも束の間、次の瞬間には驚愕することとなった。
「ようこそいらっしゃいました」
そう言われた瞬間頭が真っ白になった気がしたね、何せ意味がわからなかったからな。
すると続けてこんなことを言われたんだ、その言葉を聞いた瞬間に全身が凍りついてしまったかのような錯覚に襲われたほどだ。
それほどまでに衝撃的だったと言えるだろう。
だってそうだろう、普通こんな事言われたら誰だって混乱するに決まってるだろうが、少なくとも俺はそうだったぜ。
だからつい聞き返しちまったんだよ、そしたらまた驚かされたんだけどな。
でも仕方がないだろ?
こんな状況じゃ冷静になんてなれないのが普通だと思うんだよな、
むしろこれでも冷静だと褒めてもらいたいくらいだよ、全くどうかしてるぜ。
というわけで、このままずっと黙っているわけにもいかないから覚悟を決めて聞くことにしたんだ。
「あの、どういう意味でしょうか?」
おそるおそる尋ねてみると、彼女はにっこり微笑んで言ったんだ。
「そのままの意味ですよ、貴方は選ばれたのです」
そう言われてますます混乱してしまったんだが、彼女は構わず続けてこう言ったんだ。
「貴方も薄々感じているのではないですか? 自分が特別な存在だということについて……」
(えっ!?)
その言葉にドキッとしたね、確かに思い当たる節はあったからさ。
例えばそう、俺のステータスが異常に高かったりとかだな、他にも色々とあるんだけどよ、
とにかくこれは何かあるんじゃないかって思ってたんだよな。
だから思い切って聞いてみたんだよ、そしたら案の定だったぜ。
俺は選ばれた人間なんだってさ!
それを聞いて嬉しくなったね、だってそうだろう。
今までずっと虐げられてきた俺がようやく報われる時が来たんだからな!
「それで、俺は何をすればいいんですか?」
そう尋ねると彼女は答えたんだ。
「貴方には勇者になって頂きたいのです」
「え、それって、つまり魔王を倒せるってことっすか?」
驚いて聞き返すと、彼女は大きく頷いたよ。
「はい、その通りです」
それを聞いて俄然やる気が出てきたぜ。
よし、そうと決まれば早速出発しようじゃないか!
そう思って立ち上がった瞬間、突然視界が暗転したかと思うと次の瞬間には見知らぬ場所に立っていたんだ。
そこは見たこともないような場所で、周囲を見渡せば鬱蒼とした森が広がっているのが見えたんだ。
一体ここはどこなのかさっぱりわからなかったんだが、とりあえず進むとするか、
そう思って歩き始めた途端、周囲が暗くなったように感じたんだ。
よく見ると頭上に大きな何かが見えたので見上げるとそこには、巨大な鳥のようなものが飛んでいたんだ。
何だあれはと思ってよく見るとその生物の目が俺を見下ろしていたことに気づいたんだよ、その瞬間背筋が凍るような恐怖を覚えたね。
「う、うわああああああ!」
俺は無我夢中で走り出すと全力で逃げ出したんだ。
そして途中で転んじまったんだが、倒れたまま後ろを確認すると、そこにはあの巨大な鳥がいたんだよな。
どうやら追いかけてきたらしいということが分かり絶望しかけたんだが、その時奇跡が起きたんだよ。
なんと目の前にいるモンスターが動きを止めたかと思うとそのまま倒れ込んだんだ。
よく見ると力尽きたらしく息絶えていたようだな、一体何が起こったのかわからなかったが、
とりあえず助かったことだけは、理解できたのでホッと胸をなでおろすことになった訳だ。
「おい、兄ちゃん大丈夫かい?」
不意に声をかけられたので振り返るとそこには大柄な男性が立っていた。
どうやら助けてくれた人物のようで、その後ろには複数の人影が見えたんだがそいつらも皆武器を携えていたよ。
もしかして山賊か何かかと警戒してしまったが、この人達は違ったみたいだな。
それどころか俺を助けてくれようとしてたみたいで礼を言うことになったんだよ。
それで落ち着いたところで話を聞くことになったんだけど、
彼らは冒険者でたまたま通りかかったところを俺を見つけてくれたんだそうだ。
「そうだったのか、ありがとう助かったよ」
俺は礼を言うと自己紹介をしたんだが、向こうも同じように名乗ってくれたんだ。
名前はゴンザレスというらしいが、何故か本名を名乗らなかったんで不思議に思ったね。
まあ、人には事情というものがあるしなんだろうけどさ、
それにいちいち突っ込む必要も無いだろうと思ってスルーすることにしたんだわ。
(そういえば、アンナは何処に居るんだ?)
「なあ、ちょっといいか?」
そう声をかけると、ゴンザレス達は不思議そうな顔をしながらも頷いてくれたので、
早速聞いてみることにしたんだよ。
「実は仲間とはぐれてしまったみたいなんだが、知らないか?」
そうすると彼らは顔を見合わせてからこう言ったんだ。
「いや、見ていないな」
それを聞いてガックリと肩を落とすことになったんだが、仕方がないので諦めることにしたんだよ。
(まあ、そのうち会えるだろう)
そう自分に言い聞かせると気持ちを切り替えて再び歩き出したんだ。
すると今度は別の人物に話しかけられたんだな。
それは若い女性で、しかも美人だったから思わず見惚れてしまったんだけどよ、
そんな俺の様子を見ていた彼女が話しかけてきたというわけなんだわ。
(一体何の用なんだろう?)
そう思いながら身構えていると彼女はこう言ったんだよ。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
そして手を差し出してきたと思ったら握手を求めてきたのでそれに応えたんだが、
その瞬間電流が流れたかのような衝撃を受けたね。
「ぐへっ!? な、何だこれ? 体が痺れて動かねぇぞ!?」
俺が困惑していると、彼女は微笑みながら言ったんだ。
「ごめんなさいね、でもこうしないと逃げられてしまいますから」
と、そこでようやく気がついたんだよ。
(なるほど、そういうことか)
どうやら最初から俺を捕まえるつもりだったようだぜ。

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