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第4話 遠い異星でのあり得ない『暴挙』

 そんな遼州星系第二惑星を構成する国家、『甲武国(こうぶこく)』において陸軍大学校の卒業式は、『首席卒業者』への修了証書の授与が行われていた。昭和初期の日本の軍隊を模した甲武陸軍の制服に身を包んだ卒業生達が並ぶ中、式は厳かに続いていた。『戦時』を意識したその式典は独特の緊張感に包まれていた。

 そんな中、式は佳境を迎え、二十歳ぐらいの長身の男が『首席卒業者』として壇上へと静かに上がっていった。

 その男の特徴はパッと見その姿は二枚目ともいえるが、そのまずすぐその顔を見てわかる特徴はその目にまるで光を感じない所だった。

 冷酷と言えば言えなくもない、しかし、見るからに力の抜けたその表情はこの若者が何を考えているか分からない不気味な存在であることを示しているようにも見えた。

 軍人らしく無駄に筋肉質な体を包むベージュの詰襟の制服には三つ星が光り、彼がその年にして少佐の階級であることを示していた。

 『陸軍大学校』は唱和初期の日本の陸軍を模した『幹部候補養成機関』であり、在校生の多くは佐官クラスの『将来の将軍』を養成する軍学校である。すべての卒業生達は、『陸軍士官学校』の優秀卒業生か、幹部候補生として陸軍に奉職して五年以上の猛者(もさ)ばかりだった。当然、彼等の年齢は最低でも二十五歳以上となる。その『首席卒業生』の若さはそう言った常識から考えればどう見ても異常な光景だった。

 明らかに若すぎる『首席卒業者』、彼、嵯峨惟基(さがこれもと)少佐はその証書を受け取るとそのまま演壇を歩いて修了者の整列する方に向き直った。

 嵯峨少佐はそのまま演壇を卒業席の居並ぶ会場に向けて歩いていくと、含みのある笑みを浮かべて会場を見渡した。

 出席者の戸惑いをそこに見ると、嵯峨は満足したような笑みを浮かべた後、平然と手にした卒業証書をズタズタに破り捨てた。

 その明らかな『暴挙』に『甲武国』陸軍幹部と優秀な未来の幹部達はどよめいた。

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