1-2 姫川さんとの出会い
わたし、鳴海千尋は琴流女学院(通称 コトジョ)の新入生。
髪型はショートボブだ。ゲームが趣味の女の子である。顔は自分では可愛いと思っているが、体形がちょっとぽっちゃりしているのがコンプレックス。
たくさん食べるので肉付きがよくなってしまった。でも自分では「太っている」とは思っていない。てんびん座のB型。
今日は高校の入学式。
この女子校である琴流女学院に進学した理由は、地元で自分の学力で入れるからというそれだけだった。
放課後、家に帰ってゲームしたいな。そう思いながら入学式を受けた。
頭がバーコードの校長先生の退屈な話を聞き終えて自分の教室に行くとみんな殺気立って友だちをつくろうとしている。
わたしは気後れして出遅れてしまった。どうしよう⁉
クラスの最初のホームルームで自己紹介が行われた。あがり症のわたしはしどろもどろで自己紹介してしまい、失敗したと思った。このままだと三年間ひとりぼっちになりそう……
最初の一日でクラスのなかにはすでに友だちグループができつつある。やばい、誰も誘ってくれない。
わたしはがっかりしながら家に帰った。
そして衝撃の事実を知った。この学校では部活動は強制加入。帰宅部は存在しない。
入学前に調べ忘れた痛恨のミスだった。部活が強制な学校は意外と多いのだ。
つぎの日体育館で新入生歓迎会が行われた。部活動の勧誘がはじまった。どれもピンとこない。そのなかでひとつだけ気になる部活があった。
「えー、うちは天文部です。星の観測は夜やるので、普段は楽しくおしゃべりしてます。来るもの拒まず、去るもの追わずでやってます。興味のあるかたは遊びに来てください」
天文部の部長・姫川天音と、副部長・折笠|詩乃《しの》との出会いだった。じつに簡素な部活紹介だった。
姫川さんは高校生ながら華がある容姿で遠目に見ても美少女だった。
外国の血が入っているのだろうか。白い肌に亜麻色の髪のセミロング。髪先だけ黒のメッシュが入っている。照明を浴びて輝く瞳はアクアマリン色。
しゃべり方がちょっとけだるそうでギャップがある。折笠さんは姫川さんをサポートしながらはきはきと話し、快活な美少女だった。ふたりとも、アイドル級のルックスである。
部活やれば友だち出来るかも! 天文部ならわたしにもやれそうだ。星の観測がなければ早く帰れそう。わたしのほかにも一年生の見学者がいれば友だちになれる!
いいことずくめじゃないか。
放課後。
わたしは天文部の部室を探した。期待に胸を躍らせながら。校舎の三階、はしっこ。
ここだ! ノックして反応を待つと扉が開いて美少女が現れた。
「あら、一年生? 見学しに来たのかしら」
高校生にしてはやけに余裕がある美少女が歯を見せてはにかんだ。
「一年B組の鳴海千尋です。見学に来ました」
「わたしは天文部副部長の折笠詩乃。よろしくね」
そういった折笠詩乃先輩は制服が隆起するほどお胸が豊満で痩せている。モデル体型の美少女だった。
だがどこか母性を感じさせる顔つきの女性だった。髪型は後ろ髪を編んで胸の前へ垂らしいる。
「ヒメー、お客さん」
詩乃先輩が奥にいる女性に声をかけた。
「ヒメいうな」
ヒメと呼ばれた少女はプレイ中の携帯型ゲームにポーズをかけて振りかえった。
性格はいい加減なようだが容姿には気品と華がある。輝くような亜麻色の髪。大粒のアクアマリンのような瞳。
間近で見ると『聖少女』という言葉が連想された。
「あたしが天文部部長の姫川天音。よろしく」
微笑んだ美少女、姫川天音との運命的な出会いだった。
このときは彼女があんな人だとは思わなかった……。