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4-11 わたしは主人公だったらしい

 二回戦の興奮もあらわに大将戦がはじまる。
 九条沙織VSわたしこと鳴海千尋。でもなんでわたしが大将なんだろう。

 姫川さんはなんのためにわたしを大将にしたのか、疑問でしょうがない。

 村雨さんや折笠さんでも歯が立たなかった鳳女子茶道部にわたしなんかが勝てるわけがない。
 恨みがましい眼で姫川さんに視線を送ると彼女は天を指さした。

「大丈夫。あなたならできるわ」
 その瞳は強い光を宿し、艶のあるくちびるから白い歯がこぼれる。

 姫川さんの自信の源はなに?

「お手柔らかにお願いしますわ」
 九条さんがわたしに握手を求める。彼女の指ぬきグローブが印象的だ。

 わたしが手を差しだすと、わたしの手を握った九条さんは目を見開いた。

「ほう、これは……。姫川さんがお目をつけるわけですわ」
 眼を細めて笑う彼女は舌なめずり。

 どういうことだろう⁉

 試合開始。
 九条さんの持ちキャラクターはウィザードのフランク・マクマナスだ。原作小説では主人公パーティのリーダーを務めた。凄腕の魔法使い。

 ウィザードというだけあって非力なキャラクターだが、魔法を使った攻撃力はピカイチの中級者向けキャラクター。キャラクターランキングでは下位に位置する。九条さんは弱キャラクターをやりこむタイプなのだ。

 対するわたしはキース・ストライダーを選んだ。キースは元傭兵の荒くれもの。原作小説でも素行が悪く主人公に倒された。主人公アストリアとは暗黒傭兵部隊不死鬼(ふしき)の同期という因縁があった。キースはコマンド投げを得意とするキャラだ。

 投げキャラは体が大きいことが多いがキースは細身でわたしは気に入っていた。
 わたしはいろんなキャラクターを試した結果、キースが持ちキャラクターになっていた。

 九条さんは魔法を発動しながらゲージを溜める。攻防一体の行動である。
 わたしは魔法による光弾をガードしながら一歩ずつフランクに近づいていく。

 攻撃がヒットする瞬間、キースの体が光った。

「Pディフェンス!」
 折笠さんがわたしのテクニックに驚いていた。

「Pディフェンスとは?」
 村雨さんが上目遣いに折笠さんに尋ねる。

「パーフェクトディフェンス。略してPディフェンス。攻撃がヒットする直前にガードすると必殺技で体力を削られないで済む。さらに、ゲージまで溜まるテクニカルディフェンスよ。
 このガードを成功させるには一フレーム単位の入力が必要になる。一フレームとは〇・〇一七秒。これは一般的な格闘ゲームでは一秒間に六〇回画面を描画して書き換えているから。鳴海さんは連続でPディフェンスを成功させている。
 Pディフェンスの受けつけは入力から三フレーム。つまり、鳴海さんはおよそ二〇分の一秒を認識していることになるわ。鳴海さん、いつの間にこんな高等テクニックを……」

 投げキャラクターは飛び道具を持たないという暗黙の了解がある。飛び道具とはすなわち遠距離必殺技。多くの格闘ゲームでは投げキャラクターは飛び道具を持たない。その代わり、近距離で放つ必殺技は攻撃力が段違いに設定されている。

 キースに接近されることを嫌ったフランクは大ジャンプでキースを飛び越す。九条さんは距離を取って仕切り直そうとしている。

 わたしはそれを待っていた。
 フランクがジャンプからの着地姿勢をとった瞬間、まったくの無防備。

 画面が暗転、背中からフランクに近づいたキースの超必殺技『なにも知らないやつらに思い知らせてやる! おれの見た地獄を‼』が極まる。長いけれど公式が設定した技名だ。

 殺意を込めた首絞めからパイルドライバー。これを喰らったフランクは虫の息だ。
 九条さんが小さく舌打ちした。

 

次回へつづく

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