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4-8 恋ちゃん可愛いよ!

「ここがうちらの部室……の控え室」

 九条さんに案内されて部活棟に移動する。歩くと床が軋む。木造建築の校舎だった。

「九条さんはなぜ格闘ゲームをするのですか」
 村雨さんが上目遣いに質問を切りだす。

「ふむ。哲学的な質問ですね」九条さんは指ぬきグローブを顎にあてる。

「野球選手が野球をする理由と同じですわ。あたくしもeスポーツに魅入られた人間のひとり。そこにいる姫川さんのようにね」

 九条さんは矢のような視線で姫川さんを射る。姫川さんをライバル視しているようだ。
 姫川さんは涼しい顔。

「あたしなんて九条さんほどじゃないよ」

「ふふ……。ご冗談が好きなお方。あなたの魂は九九パーセントゲームでできているじゃありませんか」

 意味深な九条さんの発言を姫川さんは否定も肯定もしなかった。

 TVが設置してある茶道部控え室に案内される。かすかに抹茶の匂いがする。

「姫川さん、遅いっすよ」
「待ちくたびれたよ。お姫さま」
 控え室で待っていたのは鳳女学院茶道部二年生の七瀬一葉(いちよう)さんと同じく一年生の二ノ宮(れん)ちゃん。姫川さんとは面識があるようだ。

 恋ちゃんはヘッドフォンを外した。なんという美少女。背が低くて、さらさらのショートヘアにビー玉のように光る瞳。透明感のある肌。そして心地よい高音の美声。女のわたしから見ても恋ちゃんはすごく可愛い。

 
挿絵



「恋ちゃん、結婚して!」

 姫川さんが恋ちゃんに抱きつこうとする。恋ちゃんはとびきり可愛らしいから、気持ちがちょっとわかるけど、この人の場合、冗談とも思えない。

「いやだよ。まったくお姫さまはいつもこれだもん」
 恋ちゃんは姫川さんのことをお姫様と呼んでいるみたい。

「わたくしというものがありながら……」
 村雨さんが姫川さんの様子を見て爪を噛んだ。
 ややこしいことになってるー!

「恋ちゃんはあたしたちのものです」
 七瀬さんが恋ちゃんを抱き寄せる。

「ボクは誰のものでもないぞ。恋ちゃんは恋ちゃんのものだい!」
 恋ちゃんは両腕を振って叫んだ。

「恋ちゃん、ボクッ娘なの⁉ 可愛い! 絶滅危惧種!」わたしは抱きつこうとした。
「絶滅危惧種って言うな!」恋ちゃんは顔を真っ赤にして怒った。

 簡単な自己紹介が終わった。
 部屋を一望して驚いた。巨大なコントローラーがある。

「それはなんですか?」
 わたしがそれを指さすと姫川さんが答えた。

「アケコンだよ。アーケードコントローラー。ゲーセンと同じ操作ができる。見たことない? うちの部活にはないもんね」

 九条さんたちはふだんアケコンで対戦しているらしい。わたしたち天文部はゲームハードの標準コントローラーでプレイしていた。姫川さんいわく、学校にアケコン持ってきたら部室でゲームしていることがバレちゃうからだそう。

 これは手ごわそうだ。
「まず試合形式で対戦する。そのあとフリー対戦ね。三人対四人だけどハンデとしてはちょうどよいでしょう」

 姫川さんがホワイトボードに対戦表をつくる。
先鋒 七瀬一葉 VS 村雨初音
次鋒 二ノ宮恋 VS 鳴海千尋
大将 九条沙織 VS 折笠詩乃
特別枠 姫川天音

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