11:00 P.M.
それからしばらくボーっと歩いていたのだが、ふと思い立って脇道に逸れた。
真っ直ぐに進むのでは面白くない。
普段は通らないような道を積極的に選んで進む方が楽しいことに遭遇する確率が上がると踏んだのだ。
足元もはっきり見えないような路地裏へと誘い込まれるように侵入した僕は、すぐにこの選択をした自分に対して親指を立てることになる。
猫だ。
猫がいる。
数メートル先、暗闇の中に光る眼が僕をじっと見つめている。
僕は迷わず足を踏み出した。
猫は結構好きだ。
薄っすら光る二つの目は僕が近づく度に距離を取った。
時々立ち止まって振り返っては、僕との距離を測るようにじっとこちらを見ている。
そうして僕と猫の追いかけっこが始まった。
猫はどんどん奥へ奥へと進んでいく。
見失わない程度の距離を保ちながら僕も追いかける。
僕は結構夜目が利くので、そうそう巻かれることはない。
しかし猫は迷路のような路地裏を右へ左へ遠慮なくずんずん突き進む。
そうして十五回角を曲がった。
猫はまだまだ足を止める気配がない。
一応どちらへ曲がったかいちいち全部覚えながら進んでいるので、その気になれば元の場所へ出ることは可能だけど、流石にこれ以上は覚えてられない。
僕は追いかけるのをやめて、進んできた順を逆に辿って路地裏から脱出することにした。
と、その時猫がにゃあ、と鳴いた。
まるでもう少しだけついてこいと言っているかのようだった。
僕は一瞬迷ったが、
「次に猫が曲がったらそこで終わりにしよう」
と決めて猫の後に続いた。
猫は僕がついてきたのを確認してからゆっくりと歩き出した。
そして猫が次に曲がった方には街灯の青白い光が薄っすら届いていた。
そこは僕が最初に路地裏に入り込んだ場所だった。