ぬくもりがない
ぬくもりがなくなっていた。自分自身で、自分に体温がないのが分かる。
「なんだ、これ、おい・・・」
俺は手当たり次第に道行く人に触ったが、触られた相手も何をするんだこいつときょとんとするだけで、俺の異常に気づいて救急車を呼んでくれる人間はいないようだ。心臓が止まって血流停止による体温低下、だが、脳はきちんと働いていた。
「おい、誰か救急車を」
俺は自分の体の異常を皆に伝えたくて大声を上げようとしたが、体温がなくなったせいで声帯の筋肉が、思うように動かず「うぅ~、うぅ~」という変な声を出してしまった。
すると、「ゾンビだ、こいつゾンビじゃね?」と誰かが俺を指差すと、悲鳴の波が俺を中心に広がった。俺はゾンビじゃないと証明したかったが、目がかすみ、正常な血流がない足がもつれた。
「警察呼べ、警察、」
「いや、ここは自衛隊だろ」
「近づいたら噛まれるぞ」
俺には、誰かを噛みたいという衝動はなかった。だが、恐怖した人々は自衛隊の出動を要請し、ただのゾンビとして俺は射殺処分された。打たれる直前まで俺は、自分が正常な思考を保っていることを伝えようとしたが、誰にも気づかれなかった。