ガチでおっしゃっているのですか?
「実は……私は聖女を辞めたいのです」
私の言葉を聞いてロミさんの目が大きく見開かれました。
「それは……ガチでおっしゃっているのですか?」
「ええ」
私は力強く頷いてみせました。
「……」
ロミさんは酷く驚いた様子でした。
私とロミさんの付き合いはそこそこ長いです。
私は聖女としてこの教会に迎え入れられた日のことを思い出しました。
訳も分からず誘拐されるように連れてこられて、とても不安だった私に優しく言葉をかけてくれたのがロミさんです。
ロミさんなら協力してくれるかもしれない。
そんなことを一瞬考えましたが、そんな考えを忘れさせるようにロミさんは
「聖女というのは神がアルマ様にお与えになった役割です。それを投げ出そうとするアルマ様を応援することは、立場上私にはできないことです」
「そう、ですよね……」
俯く私に対してロミさんは続けました。
「はい。アルマ様に対して逃げ出してもいい、と声に出して申し上げることはできません」
ロミさんは声に出して、の部分を強調して言いました。
私は顔を上げてロミさんの顔を見ました。
ロミさんもじっと私の目を見返しています。
そしてロミさんは小さく頷きました。
私も頷き返してロミさんの心を読みました。
「善は急げです。ここを出るのなら早い方がいいでしょう。昼は人の目があるので夜がいいと思います。裏口の鍵を開けておくので、こっそりと抜け出してください。私に協力できるのはこれくらいです」
私は泣きそうになりながら頷きました。
ロミさんは心の中で続けます。
「バウワウちゃんも一緒に連れて行ってあげてくださいね。あの子はアルマ様にしか懐きませんから。それと、ここを出た後はなるべく人目を避けつつ、でも堂々としていてください。オロオロしているとやましいことがあると疑われてしまいますからね。……聖女を辞めたいとおっしゃるのは、アルマ様には他に叶えたい夢があるからだと思います。どうかその夢を叶えてください。陰ながら応援しております」
私は涙を拭って笑顔を作りました。
そしてロミさんを手招きして、耳打ちしました。
「私の夢は……」
「……ふふ。そうですか。素敵な夢です」
私たちは控えめに笑い合いました。