第九話🌿美卯ちゃんの訪問と発覚したイジメとお泊まり
もうすぐ、期末テストに入ろうとしていた六月下旬に
美卯ちゃんは突然、やってきた。
僕はまだ仕事に復帰してなくて家にいることが多い。
チャイムがなり、玄関に行くと
そこにはボロボロな美卯ちゃんが泣きながら立ったいた。
何があったのだろうか?
いや、美卯ちゃんのこの姿を見ればわかる。
中学校でイジメにあっているのだろう……
小学生の頃より悪化してないか?
また、あの{薬}が
必要になるだろうなぁ……
『いらっしゃい』
リビングに通し、ソファーに座らせ
僕はキッチンでハーブティーを淹れた。
『心綺人君』
この様子だと、また
柊和には言えてないのだろう。
『ゆっくりでいいから
何があったのか話してごらん』
さっき淹れたハーブティーを
美卯ちゃんの前に置いた。
『とりあえず、これ飲みな』
凌杏はまだ仕事中だし
話を聞いてあげられるのは僕だけだ。
「中学校って、
違う学区の子も入ってくるでしょう?
それで、入学式の時にパパが
お仕事で来られなくて
ママだけ来てくれたんだけど、
ママが“男性”だから……」
言いたいことはわかった。
僕達みたいな家族は
他にもいるのにどうして
美卯ちゃんばかり
辛い目に遭わなきゃいけないんだ。
善哉家は後三人子供がいる……
下の三人はどうしてくか
僕は見守っいきたいと思った。
『夢卯君と
月卯ちゃんは大丈夫そう?』
美卯ちゃんが
卒業してしまった今、
小学校には双子の二人しかいない。
「二人は大丈夫だと思う。
ママが“男性”ってことが
普通じゃないことを理解してないから……
私も家では不安感を極力
出さないようにしてたけど
“これ”は
誤魔化せないから此処に来たんだ」
確かに、此処までボロボロの姿で
家に帰ったら柊和は訊きたがるだろう。
「心綺人君に二つお願いがあるの」
なんだろう?
「一つはギュッてしてほしいのと
もう一つは此処に泊めて欲しい……」
なんだ、そんな事(苦笑)
『勿論、両方いいけど
お泊まりの方は柊和に
何て説明するの?』
抱き締めるのは今此処でできる。
だけど、お泊まりは
夏休みに入ってからなら
柊和も何も言わないだろうけど
まだ、学校がある今は
帰ってこいと言うだろう。
『わかった。
僕が上手い理由を考えてあげる』
状況は違うけど
イジメにあっていた経験はある。
久崎と遊ぶのを断ったら
翌日からあいつのグループから
嫌がらせされるようになり
一週間後にはイジメに変わった。
「本当に?」
不安そうな美卯ちゃんに頷いた。
『うん』
泊めるのはいいんだけど
一つ問題がある。
『お着替え、どうしようか?』
生憎、うちには下着も服も
当然、男物しかない。
幸い、制服は破れてなさそうだけど
買いに行くにしても
この格好では外に出られない。
『ねぇ美卯ちゃん、
下着とお洋服のサイズと
好きな色とかデザイン
教えてくれる?
お留守番しててくれたら
僕が今から買ってくるよ』
“普通”の家庭なら
男親にあたる僕に女の子が
下着のサイズなんて
教えたくないだろうなぁ(笑)
「いいの?」
僕に買いにいかせるっていうのと
お金のことを心配してるのかな(苦笑)
『勿論。
何も心配しなくていいんだよ』
一つ目のお願いを叶えて
ギュッと抱き締めた。
美卯ちゃんはまだ中学生だし
ちょっと頑張り過ぎな
ところがあるから
たまには、頼ってほしい。
「お願いしてもいい……?」
頼られて嬉しい。
『わかった(ニコッ)
行ってくるから
好きに寛いでてね。
それと、心咲は当分
起きないと思うけど
起きちゃったら
面倒見ててくれるかな?』
「任せといて、
心咲ちゃんが起きたら
ちゃんと面倒は見ておくから」
色々な物の場所を説明し、
あの格好のままじゃ
疲れるだろうと思い、
凌杏のシャツを一枚借りて
美卯ちゃんに着せた。
やはり、中学生の美卯ちゃんには
身長が低い凌杏のシャツでも
ワンピース状態になり引き摺っているから
裾をヘアゴムで縛ってあげた。
「ありがとう」
お留守番を美卯ちゃんに
頼んで家を出た。
一応、凌杏にメールをしておこう。
『《美卯ちゃんが来てるよ。
買い物中だから、僕より
先に家に着いたら話してあげてね》』
これでよし。
序でに、夕飯の買い物もして帰ろう。
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僕が家に着いても
凌杏はまだ帰って来ていなかった。
『美卯ちゃん、ただいま』
今から洗濯して乾燥すれば
夜には着られるだろう。
「お帰り。
心咲ちゃんは起きなかったよ」
二時間くらい出てたのに
起きなかったのか。
『お留守番、ありがとね』
さて、柊和に電話しなくちゃな。
『美卯ちゃん、
ママに電話してくるね』
今頃、学校から
帰って来ない美卯ちゃんを
心配してるだろうから。
『《もしもし、僕だけど》』
柊和は意外と
直ぐに電話に出た。
「《心綺人?》」
不思議そうな声音で呼ばれた。
それもそうだろう、
本当なら僕から電話が来る
予定なんてなかったんだから。
『《美卯ちゃんが
帰って来ない上に
連絡が取れないから
心配してるじゃないかと思ってね》』
あの姿と精神状態では
当然、柊和に連絡する
余裕はなかったはず。
「《何で、心綺人が
それを知ってるんだ?》」
本当のことは言わない約束だからね。
『《学校帰りに心咲に会いに
寄ってくれたんだけど
慣れない学校生活で疲れたのか
僕と話してる途中で寝ちゃったから
起こすのは可哀想だし、
泊めようと思って電話したんだよ》』
嘘も方便。
美卯ちゃんのためにも
少しの嘘は許してもらおう。
「《そうなのか……》」
『《本当は長居するつもりは
なかったみたいで帰り際に
連絡するって言ってたんだけど
寝ちゃったから、僕が代わりに
連絡をいれさしてもらったよ》』
本当は起きてるし、
イジメのことを言えないからだけど
寝ちゃったってことにすれば
柊和も納得するだろう。
「《わかった……
悪いけど、泊めてやって》」
ほら、納得した上に
お泊まりの許可もでた。
『《わかった、
美卯ちゃんをお預かりします》』
最後だけわざと
かしこまって言ってみた(笑)
「《よろしくお願いいたします》」
柊和もかしこまって言った。
幸いなことに明日は土曜日。
外傷はなかったから
制服を汚されただけだろけど
精神的にはかなり参ってるに違いない。
『《じゃぁ、美卯ちゃんが
帰る時にまた連絡するよ》』
それだけ言って
電話を切った。
『お泊まりの許可が出たから
ゆっくり休んでてね。
僕は夕飯の支度をしちゃうから』
これで、とりあえず大丈夫だ。
『ただいま帰りました』
それから、二時間後に
凌杏は帰って来た。
『お帰り、凌杏』
「凌杏君、お帰り」
リビングに来た凌杏に
二人でお帰りと言った。
『おや?
心綺人、女の子に
なんて格好をさせてるのですか』
確かに、スカートが短いのと
シャツ一枚をワンピース代わりに
しているのじゃ
同じ短さでも少し違って見える。
『ちょっとあってね(苦笑)
美卯ちゃんは今日、
お泊まりするから
洋服とか色々、
買って来たんだけど
まだ、乾燥機の中だから
凌杏のシャツを一枚着せたのさ』
さてと、乾燥機は
後、どれくらいで終わるかな。
『私のシャツを着せるの構いませが……』
*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。
夕飯後、美卯ちゃんは
僕に話してくれたのと
同じ事を話した。
『それは……』
珍しく凌杏がキレている。
僕の嫌がらせの時以来だな(苦笑)
「り、凌杏君……?」
美卯ちゃんは初めて見たんだろう。
凌杏は普段、優しくて
物静かとはいかないけど(苦笑)
めったにキレない。
生徒達とも友達のような関係を築き
古参の教師達から“なってない”
なんて言われているけど
それだけ、凌杏が生徒達に
好かれている証拠だ。
例外は
“大切な人が傷つけられた時”。
元担任の娘だし
それこそ、
彩月ちゃんと同じように
生まれた時から
知っているんだろうから
イジメにあってるなんて
知ったらキレるだろうね。
『先生達には
知られたくないんですよね?』
美卯ちゃんが頷いた。
そりゃそうだ……
僕の場合、“男”だし
“高校生”だったのもあって
最初は言えなかった。
だけど、母さんは
初めて生理になった時と同じように
優しく抱き締めてくれた。
『いいですか美卯さん、
そういう連中には
口で何を言っても無駄ですから
期末テストで
学年で一番を取るのです。
勉強が出来る相手には
何も言えないのが
小・中学生のルールです』
それは一理あるかも。
「英語教えてくれる?」
おや、僕の出番だね♬*゜
『勿論(๑•᎑•๑)
僕は英語教師だもの
美卯ちゃんが
わかるまで教えてあげるよ。
テスト範囲表と教科書と
ノートを出してごらん』
こうして、
期末テストの勉強をすることになった。
英語だけじゃなく
文系の教科全般を僕が
一つ一つ教えてあげた。
理数系はやっぱり
得意みたいで、だけど
わからない所は
凌杏に聞いていた。
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翌朝、ご飯の用意をしていると
僕が昨日、買って来た服に
着替えた美卯ちゃんがリビングに来た。
「心綺人君、おはよう」
まだ、眠そうな目を擦っている。
『おはよう、よく眠れた?』
あんなことが
あった後だから心配だ。
「うん、寝過ぎちゃった。
それから、お洋服ありがとう」
それくらいの方がいい。
『いいんだよ*♬೨
凌杏が洗面所にいるから
美卯ちゃんも顔を洗っておいで』
テーブルに三人分の
朝食を並べていると
二人が洗面所から戻って来た。
「美味しそう.。.:*✧」
笑ってくれてよかった(ホッ)
『沢山、食べてね』
心咲のミルクは
美卯ちゃんが起きてくる前に
飲ましたから、今は寝ている。
「いただきます」
食欲もあるみたいだし一安心かなぁ。
朝食の片付けや昼食の用意などを
美卯ちゃんは色々手伝ってくれた。
助かるし嬉しいけれど、
此処にいる二日間くらいは
子供らしくいてほしいと思った。
『美卯ちゃん、
のんびりしてていいんだよ』
多分、家では率先して
手伝いをしているのだろう。
「でも……」
兄弟の一番上だから
自分がしっかりしなきゃと
無意識に身体が
動いてしまうのだろうね。
『そうですよ、美卯さん』
書斎で持ち帰りの仕事を
終えたらしい凌杏が
リビングに戻ってきた。
「凌杏君……」
考えていることが同じでよかった。
『手伝って頂けるのは
心綺人も助かりますし
嬉しいでしょうけど、
此処にいる間は
ゆっくりしていていいんですよ』
やっぱり、
僕達は似た者夫婦だね(笑)
『ちょっと待っててください』
何かを思い付いた凌杏は
再び書斎に行き、すぐに戻って来た。
その手には一冊の本がある。
『これでも読んでてください』
タイトルを見ても僕にはわからなかった。
「え⁉
凌杏君、これ……」
その本を受け取ると
美卯ちゃんの目が輝いた。
『そうです、彼の新作ですよ』
二人は共通で
好きな作家さんがいるんだね。
『差し上げます』
おや、もう一冊あるのかな?
「凌杏君はもう読んだの?」
美卯ちゃんもそう訊いたものの
気付いているだろう。
本は明らかに新品だ。
僕達が疑問に思っていると
凌杏は予想の斜め上をいく
爆弾発言をした‼
『いえ、ですが、彼に頼めば
送ってくれるでしょうから』
え? どういう事?
「知り合いなの?」
うん、美卯ちゃんの質問は正しい。
『えぇ、友人の兄ですから』
凌杏はサラッと二度目の爆弾を落とした。
僕達の驚きも
何処吹く風といった感じで
電話をし出した。
『〈お久しぶりです。
例の新刊、一冊送って頂けませんか?〉』
『〈買ったんですけど
あなたのファンの方にあげてしまったので〉』
察するに
今美卯ちゃんにあげた本を
買った時にその旨を伝えていたのだろう。
『〈今からですか?
わかりました、引っ越したので
◆◆駅で待ち合わせしましょう〉』
ため息を吐いて電話を切った。
『すみません、心綺人、
彼を迎えに行って来ます』
お財布とスマホを
ポケットに入れ玄関に向かった。
『気を付けてね。
お茶の用意して待ってるから』
◆◆駅は家からそんなに遠くない。
歩いて二十分くらいだ。
『ありがとうございます。
あなたは本当にいい奥さんですね』
玄関を開ける前にキスをしてくれた。
凌杏の友人の兄で
作家だという彼は
わりと気さくな人だった。
歳は僕の一つ上らしい。
挨拶は軽く済ませた。
泊まりに来てた
美卯ちゃんにも優しく接し
凌杏があげた本にサインを
してあげていた。
美卯ちゃんが
寝た後のその日の夜。。。
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『遊羽は元気ですか?』
状況からして
彼の弟で凌杏の
友人のことだろう。
「変わらず元気さ。
凌杏が結婚して
父親になったなんて
知ったらあいつは吃驚するだろな……
しかも、相手は同性だしな」
最後の言葉にビクッと
肩が小さく跳ねた……
最初に挨拶した時も
今の台詞にも嫌悪感は
ないのはわかっているけど
マイノリティな僕達の結婚は
後ろめたさが付きまとう……
『でしょうね(クスッ)
私達が中学の頃、大人になって
一番最初に結婚するのは誰かって
三人で話していたのを覚えてますか?
ん? 心綺人?』
話していたのに僕の
小さな異変に気付いてくれたらしい。
『なんでも『なくないですよね』』
珍しく、途中で遮られた。
『心綺人、
結婚する時に言ったはずですよ。
何かあるなら
隠さずに言ってくださいと』
確かに約束した。
『それとも、
今、此処で彼の前で
躯に聞いてもいいんですよ?(ニヤリ)』
耳元で囁かれた言葉に
僕は俯いていた顔を上げた。
『凌杏⁉』
実際にはしないのは
わかってるけど
一瞬、怖いと思ってしました……
『冗談ですよ(笑)
あなたのあんな可愛らしい姿は
誰にも見せるつもりはありませんから』
本当に、
こういう時は意地悪なんだから……
『大丈夫ですよ。
あなたと心咲は
何があっても私が守りますから』
そして、勘がいい。
「あ、悪い」
僕達の雰囲気から
彼がさっきの自分が言った台詞を
思い出して謝って来た。
『いえ、僕が勝手に
不安になってしまっただけなので
気にしないでください(苦笑)』
凌杏に抱きしめられて僕の心は落ち着いた。
結局、朝方まで三人で話した。
この時はまだ、
あんなことが起きるなんて
思いもしなかった……